ちゅう

ミッドナイトスワンのちゅうのレビュー・感想・評価

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
3.0
アイデンティティを常に揺るがされることのつらさについて考えさせられた。
生きているだけで自分を異物と思わされるのはとてつもなくつらいことだろう。

そして、トランスジェンダーの人が具体的にどういうことに不快感を感じているのか、しんどく感じているのかについてなかなか説得的だった。
経済的な面も含めていかに生きづらいかというところもうまく描けているように思う。

"一度滑り落ちたら落ち続ける"というセリフは日本社会の最も大きな問題の一つを表していて、それは日本に生きる全ての人にとって生きづらさの原因になっているけど、そういう問題の最初の犠牲者は常にマイノリティーであるし、本当にすぐそこにあることが身に染みた。

そういう意味では良く描けていると思う。


ただ、ここからは苦言になってしまって本当に申し訳ないのだけど、観ていてしんどくなったシーンがいくつもあった。
わかりやすくしようとしているのだとは思うのだけど、それにしても不必要なセリフが多い気がする。
それに感動的なシーンはもうちょっとさりげなくていいんじゃないかとも思う。
例えば凪沙が病院で注射を受けた後ふらふらになって帰ってきて薬を飲みながら泣くシーン。
正直、なんでこんなにも長尺で同じ言葉を繰り返えさせるのか、あえてカットを変えて真正面から撮るのか不自然に思えて仕方がなかった。
好みの問題と言えばそうなのかもしれないけれど、泣かせようという意図でなければいったいなんなんだと感じさせるような演出は、特にこういう憐憫を誘いがちなテーマでは非常に危険であるし、大事な問題を矮小化させる恐れがあると思う。

わかりやすく感動させようとすることは、観客が自ら解釈して感動することを放棄させることに等しい。
深い感動は自ら解釈するという行為の上にしか存在し得ないと考えている僕にとっては、大事なシーンが逆にノイズになってしまったのでつらかった。


良い部分と悪い部分が同じくらい目立っている作品だと思う。
それがこれだけの話題を呼んでいるのだろう。
現在の日本でLGBTを扱うことの難しさは想像できるのでそこは評価したいし評価しているのだけど、悪い部分が日本の映画にとって根深い問題な気がしてならないので手放しで評価することができなかった。
そしてこれが僕が邦画をあまり観ない理由であるのだろうと思っている。

僕はまだLGBTについて考えが至らない部分が多々あるので、Netflixで配信中の「トランスジェンダーとハリウッド: 過去、現在、そして」を観てみようと思っている。
ちゅう

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