あもすけ

ファンファーレが鳴り響くのあもすけのネタバレレビュー・内容・結末

ファンファーレが鳴り響く(2020年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

生きれば生きるほど殺すことにロマンを託せなくなっていって、だけどそのときの感情を妄想に押し付けないとどうにもならなくて、そんな妄想が目の前で具現化したら、私なんかよりもずっと優しい心で抑え込んでいた彼が鞄の中身をぶん投げたのがどうしてかって、凄くわかる気がする。生身の人間でないのだと思い込むくらい、死ね、の矛先を決められないくらい、妄想のなかで頭を射抜くのが神様なくらい、そうして何とかしながらも実際、七尾の行為にひと時のカタルシスを得てしまう。つまんないっていう言葉がどれだけ負い目になるか。自分が何もしないまま、成り行きでも他人の手を汚してスッとしたことを見過ごせない。だからどこまでいっても解放なんてされないし、だけど即効性の手段として馴染んでいくのは止められない。七尾が何のストッパーもないサイコパスなわけでもない。始まったら止まれないのを知っていて、無闇にナイフを向けるようでいながらそれなら問答無用で部屋に入れて殺してしまったらよかった。凄く勝手だとしても基準はあって、そんなことおくびにも出さないまま彼女なりのギリギリがあったんだと思う。劇的なふたりに対して周囲の即物的で俗っぽいリアリティが際立って、それが反転するみたいに照射される違和感のなかで、浮いた言葉にも理想を託す等身大が滲んでると思ったらひりひりする。それまで巻き込んでくれたから最後、現場のオッサンの優しさを前に言葉を絞り出す表情とてもグッときてしまうし、後悔と言われて頷きながらもどこまでなのかわからない、どうしてたらよかったかなんて何にもわからないままの現在から、思考のぼやけるなかで浮かべた笑みにもうぐわあああああああっとなった。いじめやいじめっこがすごく型っぽく感じたけどそれでも腸煮えくり返ったし、死に至らしめるまでの過程にちゃんと段階を踏んでくれて胸のすくような気持ちになって、でもそれがどこにも到達できずに消化されないこと、だからそこには救いのないこと、それが戒める物語としてもそうだし、殺す場面にそのまま表れている感じがした。音楽と夜景や朝焼けの場面もまんま美しく感じられずにどこか表層的で虚しかった。
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