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ブロークン・フラワーズ

『ブロークン・フラワーズ』に投稿された感想・評価

netfilms

netfilmsの感想・評価

4.3
 青いポストに届けられたエアメイル、集荷に来たUS MAILのトラックに集められ、アメリカ各地へ送られて行く。アメリカの都市部、広い庭先を持つ一軒家、玄関先に投げ入れられた封筒の束。物音すらも聞こえないまま、ドン・ジョンストン(ビル・マーレイ)はソファに腰掛け、アレクサンダー・コルダの34年作『ドン・ファン』をただじっと眺めていた。その姿に苛立つ愛人のシェリー(ジュリー・デルピー)はドンにすっかり愛想を尽かし、荷物をトランクに纏め、2人の愛の巣から旅立って行くが、ドンはシェリーの決断を止める様子もない。男はIT業界で巨万の富を築きながら、烈しい鬱で無気力な様子だった。シェリーが出て行った日、ドンの家に届けられたピンク色の封筒、差出人不明の手紙には「あれから20年、あなたの息子が探しに行きますから」と一方的な報告だけが書かれていた。困惑したドンは隣に住むエチオピア人のウィンストン(ジェフリー・ライト)に相談をする。ピンク色の封筒にピンクの文字のタイピング、切手のデザインはキツツキ。これらの手掛かりだけをヒントに、素人探偵であるウィンストンは浮名を流した女のリストを教えろとドンに迫る。彼が一生懸命思い出した5人の女のリスト、不幸にもミシェル・ぺぺは5年前に他界していることがわかるが、他の4名は健在だった。ウィンストンは4人の家を巡る旅の行程表を渡し、浮かないドンはかつての恋人たちとの再会の旅に出る。

 一見してジュリアン・デュヴィヴィエの38年作『舞踏会の手帖』を想起させる物語は、生粋のコメディアンであるビル・マーレイの笑顔を隠した無表情の魅力に集約される。一貫して鬱状態にあるドンは常に、全ての喜怒哀楽を無表情という免罪符で誤魔化す。やり手のIT実業家が、隣に住むエチオピア人の旅の行程に全てを委ねる受け身のユーモアは、自分探しの旅=ロード・ムーヴィとしての性質も帯びる。かつての恋人の突然の来訪に対し、女たちは各人それぞれに困惑した表情を浮かべる。かつては「ドン・ファン」のような優雅なプレイボーイ生活を送っていたドン・ジョンストン(冗談のような名前!!)はもしもこの人と結ばれていたらとひたすら過去を思う。しかしながら身寄りもない独身50代の孤独な人生は、どちらを明確な勝者とも敗者とも線引きしない。ローラ(シャロン・ストーン)とはちゃっかりと夜を共にしながらも、徐々に苦悶の表情を浮かべる主人公の姿。特に2件目に辿ったドーラ(フランセス・コンロイ)の家で食べた料理の味気なさを、フォークで串刺しにした人参で表現するビル・マーレイの即興演技が素晴らしい。3件目で出会うカルメン(ジェシカ・ラング)よりも印象に残るアシスタントのクロエ・セヴィニーの描写、70年代のバイカー集団の遺物のような環境に取り残された4件目のペニー(ティルダ・スウィントン)とドンとは、もはや前時代に取り残された20世紀の遺児としての滑稽さを帯びる。

 息子だと信じて疑わなかったマーク・ウェバーが去った後、車中から不敵な表情を浮かべるのは、ビル・マーレイの最愛の息子ホーマー・マーレイに他ならない。フィクションの中にほんの少し散りばめられたノン・フィクションの萌芽、『デッドマン』から3作続く物語の定型からのジャームッシュの小気味良い逸脱は今作で一つの到達点を迎える。図らずもこの年のカンヌでは、兄弟子で盟友でもあるヴィム・ヴェンダースの『アメリカ、家族のいる風景』、デヴィッド・クローネンバーグの『ヒストリー・オブ・バイオレンス』と過去を巡る男たちの旅の主題が3作重なるという2005年の一つのトレンドを作った。病巣を抱えた男たちの旅の主題は、2001年にアメリカを襲った9.11同時多発テロとも無縁ではない。平和な21世紀を迎えたはずの主人公たちは、三者三様にかつての傷が疼き、病めるアメリカと向き合わねばならない。残念ながらパルム・ドールはベルギーのダルデンヌ兄弟の『ある子供』(傑作!!)に奪われたものの、今作は第58回カンヌ国際映画祭においてヴェンダースやクローネンバーグを押し退けて見事、審査員特別グランプリを獲得した。
Funazo

Funazoの感想・評価

2.2
かつてのプレイボーイが元カノを訪ね回る設定自体は悪くはないのだが、ゆったりとしたスローテンポなストーリーのせいで最後まで面白くなることがなく終わってしまった。もっと、コメディ寄りにした方がよかったと思う。
ワンコ

ワンコの感想・評価

4.6
【ピース/大人へのアイロニー】

僕達の人生が、ジグソーパズルのようなものだとしたら、あちこちに絶対埋められないピースがあるに違いないと思う。

ピース自体がないのだ。

この「ブロークン・フラワーズ」は、気まずくも、可笑しくて、でも、やっぱり気まずく展開するストーリーのなかで、大人なんだけれども、大人になれない大人へのアイロニーを描いている。

しかし、エンディングは、やっぱりちょっと笑っちゃう。

ビル・マーレイは、このドン・ジョンストンみたいな役をやらせたらピカイチだと思うし、4人の元恋人役も、年齢を重ねたとはいえ、やっぱり美人だし、役になりきっていて素晴らしいと思う。

もし、昔の恋人から、今は一人で、実は密かに僕の子供を産み、育てて....と連絡があったら、僕は、どうするだろうか。

家庭のあるなし、裕福か否かを考えても、会いに行く勇気があるだろうか。

この作品には、この視点から、ずっと気まずさが付きまとう。

最初に、シェリーが出て行ってから、ずっとだ。

ウィンストンと、ローラくらいは登場人物として例外のように思うが、それを除くとやっぱり気まずい。

ドンの過去の女性遍歴は、詳細が語られることはないが、どう考えても、あまり褒められたものではないことが伺える。

でも、まあ、確かに、気まずいのだが、僕達は傍観者として、「まあ、しょうがないよね」と他人事として、女性だったら少し憤ったり、男性だったら、自分は大丈夫と高を括ったりしながら、眺めて笑っているのだ。

最期、もしや(父親の)自分に会いに来たのではないかというようなしぐさの若者に、チーズ入りの基本ベジタブルのサンドイッチをおごった時の会話が秀逸だ。

「旅する僕に、サンドイッチをおごって、あと何か哲学的な助言はある?」

「そうだな、過去は終わってしまった。未来といえば、これからどうにでもなる。だから、大事なのは、現在なんだ」

そうだよ!
ドン、それは自分自身に言わなくてはいけない言葉なんだよ!

他の若者にも息子か?と目を向けるドンが最後まで面白い。

そして、僕の最初の問い。

「もし、昔の恋人から、今は一人で、実は密かに僕の子供を産み、育てて....と連絡があったら」、僕はどうするだろうか。

これだという答えは見いだせない。

でも、それが人生なのだ。

大人だから、良い答えが導き出せるとは限らないのだ。

やっぱり、埋められないピースはある。

ないことを知らずに、探し続けるしかないのかもしれない。

皮肉だけど、それはそれで、面白いかもしれない。

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