くわまんG

サヴェージ・ウーマン 美しき制裁のくわまんGのレビュー・感想・評価

5.0
あらすじ:善き母の愛は無敵だよ。なぜなら心が最強だから。

夫を殺され、息子は言葉が出なくなり、蓄えも無い。社会や親は、助けてくれないどころか搾取しようとしてくる。我が子までも…というお話。

母は強し。それを言うは易いけど、ここまで真にかつ深く描けている映画は滅多に無いと思う。

行動原理が「弱く善良な家族を傷つけたやつに同等以上の苦痛を与えたい」攻撃(=復讐)ではなく、「家族を二度と傷つけさせないためなら何だってする」防御(=母性)なのが、本作品の味噌。おかげで揺るぎない正義が主人公サイドにあり、人を殺しておきながら迎えるハッピーエンドに得心がいく。

虐げられても蔑まれても、寂しくても辛くても、我が子を育くむ日々さえあればいいサラ。子供の幸せだけは誰にも奪わせないと決めているから、自分が死ぬわけにはいかない(死んだら子供が精神的経済的に不幸になるので)。死んでも守るではなく、冷静に己の生存を確保するところが、女のカッコよさ全開で痺れた。

実母との仲直りも良かった。母娘は、ああいう胸襟の開き方をするのかな。何にせよ、互いの幸せを願い合っている場合、ボタンの掛け違いは必ず修復されるもの。

構成も素晴らしい。家庭が崩壊しやしないかハラハラさせる導入で引き込み、暴漢やマフィアとのエピソードが収束していく繋ぎで牽引し、死亡フラグが立ちまくるクライマックスで盛り上がって小気味よく終幕。なんてまとまりが良いんだろう。

主演女優のサラ・ボルジャーも、表情が細やかで最高だった。隙だらけのようで隙が無い人物というのは、なかなか難しい役柄だと思う。

唯一不満点があるとすれば、清掃員が不憫なこと。悪党の非道さを際立たせる役回りゆえあの結末なんだろうけど…ニュースで無事を報道するだけでなお後味が良くなったのにな。まあ仕方ない、脳内で救済しとこう。

無能な警察は彼女を裁けないし、神(=観客)は彼女を裁かないし、彼女も彼女を(罪悪感で)裁かない。正しく、強く、優しく、冷静。最強の母ちゃんと化したサラが束ねるコリンズ家は、もうこの先何が起こったって安泰だろう。

市井の人でも、相手が権力者だろうと反社だろうと、心で殴り勝てば鉛玉は言うことを聞くし逆もまた真なり。澄み切ったエンディングには鳥肌が立った。