ノットステア

83歳のやさしいスパイのノットステアのレビュー・感想・評価

83歳のやさしいスパイ(2020年製作の映画)
3.8
○アマプラ紹介文
『007』、『ミッション・インポッシブル』、『キングスマン』…。映画の歴史でスパイを題材にした名作は数多くあれど、しかし、それとはまったく違うアクションとは無縁の、世界でいちばん"やさしい"スパイ映画が誕生した。主人公は83歳の素人男性セルヒオ。しかし、映画ではこのセルヒオが驚くべき活躍を見せる。携帯電話の扱いひとつさえ不慣れなセルヒオが、眼鏡型の隠しカメラを駆使し、暗号を使って潜入捜査を繰り広げる様子に視聴者はハラハラしっぱなし。老人ホームのある入居者が虐待されているとの疑惑があり、そのターゲットの様子を密かに克明に報告することが彼のミッションだ。妻を亡くした悲しみの中にある彼は、傷ついている人をほおっておけない心優しい性格で、調査を行うかたわら、いつしか悩み多き入居者たちの良き相談相手となってしまう…。

以下、ネタバレあり












○印象的な詩やセリフ
"まだ母親が健在であるなら慈悲深い神に感謝しよう。長寿という聖なる喜びを享受できる者は多くない。もし天に召されたら母の墓は聖地となろう。神聖な心の拠り所なのだから。魂が非情なトゲに貫かれたら母の墓を訪れ癒やしを乞おう"

「以前の私は4人の子供に恵まれてとても幸せだった。だけど今はそれほどでもない。せっかく育ててあげたのに。子供って薄情なものね。めったに面会に来ない。でも責めたりしないわ。いろいろ事情があるのよ。仕事や用事で忙しいだろうし、みんな結婚して家族がいるし私のことは二の次よ。怒ったところでどうしようもない。…人生って残酷ね」

自作の詩で来る者を迎えていた女性(ペティタ)が亡くなる。弔辞
"まだ母親が健在であるなら慈悲深い神に感謝しよう。長寿という聖なる喜びを享受できる者は多くないのだから。母親が健在なら大切にしよう。苦楽を乗り越えてあなたを産んでくれた人だから。昼は働き夜は子守り。優しい歌であなたを寝かせ起きたら優しいキスをする。もし母親が天に召されて親孝行できないなら母親が埋まる冷たい地面に思い出の花を供えよう。母の墓は聖地となろう。神聖な心の拠り所なのだから。魂が非情なトゲに貫かれたら母の墓を訪れ癒やしを乞おう"

「ロムロ。私の考えなど無用なのは分かってる。それでも言わせてもらいたい。入所者はみんな孤独だ。面会は少ないし家族に捨てられた人もいる。孤独ほどつらいものはない。ホームには犯罪など一切なかった。ターゲットは手厚い介護を受けてる。だが彼女に本当に必要なのは家族の愛情だ。今回の仕事に意味はあるのか。このような調査は本来、依頼人が自ら行うべきだ。そうすれば母親にもっと寄り添えるだろう。最後に…任務はいつまで続ける?できればもう帰りたい。」



○感想
【ドキュメンタリー?】
映画の撮影ってことは老人ホームの職員には知らせてるみたいだけど、それが虐待の疑惑を明らかにするためだという目的は知らせてないってことなのか?
老人ホームで犯罪は起きていなかったということが判明したから映画の上映が許可されたとかなのか?


【どんなスパイ?】
プロのスパイかと思ったら違った。83歳、男性、素人。優しさがあり、人の話を聞いて傷つけないようにする姿は良かった。
大半の入居者が女性の施設。主人公のスパイは男性。その優しさから、入居者の女性たちから人気を得る。
潜入捜査のターゲットは女性。虐待を受けていないか、盗難被害に遭っていないかなどを確認するわけだが、個人部屋にガンガン乗り込んで撮影して話を聞こうとする。ターゲットはあまり他人に心を開かない人。ちょっと苦戦する。
この作品では主人公はモテてて、女性から結婚したいと思われる。
仮に老人ホームに自分の身内が入ったとしよう。他の入居者からアプローチを受けていたら嫌なんすけど。
この作品のスパイとして適任なのは、女性だったのでは?
冒頭でスパイ候補が何人かいたけど皆男性だった。なんで???


【スパイと探偵の違いってなんだろうか?】
調べてみた。そうして思った。この作品、83歳のやさしいスパイではなく、83歳のやさしい探偵じゃん、と。

以下、「総合探偵社KAY 「スパイ」とは?探偵とスパイの違い」2019.07.01を引用
「スパイ」と聞くと、 と聞くと、映画ミッション・インポッシブルや007を想像する方も多いのではないでしょうか。そもそもスパイというのは、政府や組織に雇われて、相手の秘密を得る人のことを指し、その業務内容は探偵と似ている点もあります。そこで今回は、スパイの仕事、「スパイ」と「探偵」の違いについてご紹介します。
1.「スパイ」の仕事
スパイは、政府や企業などの組織に雇われ、競合相手などの情報を奪い、それを雇い主に報告することが業務の内容となります。スパイの歴史は古く、日本においても古くから「間者」として、敵国に対してスパイ活動を行っていた記録も多々残っています。ミッション・インポッシブルや007では、派手な活動を行っているスパイですが、現実世界においては、それほど派手な動きを行うことはそうそうありません。相手の情報を奪うことを目的としているため、大きく動いて目立ってしまうと、本来の業務に支障をきたしてしまいます。そのため、活動の多くは、あまり目立たずに、地味な活動を繰り返し実施することとなります。探偵の仕事も、地味な作業の繰り返しですので、似通っていますね。また、昨今は産業スパイと呼ばれる、企業をターゲットにしたスパイが暗躍しています。産業スパイは、同業他社などのライバル会社に対し、社員や役員の貫収、組織内部への潜入などを行い、極秘情報を収集することに専門特化したスパイです。
2.「スパイ」と探偵の違いとは?
スパイも探偵も、調査相手の情報を収集するという点においては、非常に似ているところがあります。必要に応じてターゲットに接触したり、ターゲットを尾行するという業務の内容も、似ている部分が多いといえるでしょう。しかし、前提としてスパイは国や企業などに雇われるのに対して、探偵は個人に雇われることが多い点について、相違があります。また、その取り扱う情報にも大きな差があります。スパイは、相手が隠し持っている情報そのものを調査しますが、探偵は、主に相手の人間関係を調査します。つまり、ターゲットもスパイは組織であるのに対し、探偵は個人であることが多いです。そのため、企業を狙うスパイvsスパイを見つけ出す探偵という構造も成り立つといえます。しかし、企業が持つ情報を収集するのがスパイの仕事ですので、スパイvsスパイという構造は、企業を守るという視点では成り立つことはありません。スパイを見つけ出し、予防するには、探偵等を雇う必要があるようです。
https://kay-tantei.com/blog/129.html



○あらすじ
探偵事務所が高齢男性を募集。数人の高齢男性が集まる。電子機器は使えるかなど確認。長期間、老人ホームに潜入することになるが家族の了承は得られるか。83歳のセルヒオが選ばれる。セルヒオは数ヶ月前に妻を亡くしている。
潜入のターゲットは聖フランシスコ特養老人ホームに入所しているソニア・ペレスという高齢女性。
ソニアの娘からの依頼で、内容は所内でソニアが虐待を受けているのではないか調べるために老人ホーム内の実体を探ること。
セルヒオはスマホやカメラ付きの眼鏡の使い方を教わるが、慣れない様子。

聖フランシスコ特養老人ホームに入所。
セルヒオの優しく紳士的な振る舞い。
機械や暗号を使いこなせてはいない。
ターゲットのソニアがなかなか見つからない。似たような女性が数人。
老人ホームの皆に話を聞いて回る。

亡くなった母(のふりをした職員)に電話をする認知症の女性。盗難癖あり。
記憶が飛んでしまう女性。
セルヒオに恋する女性。
詩を作るのが得意な女性。

ソニアは人見知りで警戒心が強い。セルヒオは辛抱強くソニアに近づいて話しかける。

職員に質問までしてしまうセルヒオに、探偵事務所の男はヒヤヒヤする。

老人ホームで行われるパーティーやイベント。楽しく過ごすセルヒオ。

虐待の証拠なし。
ソニアの所有物が亡くなる理由も判明(認知症の女性が持っていってしまう)。

セルヒオは老人ホームにいる高齢者たちの孤独に気づく。家族が来ないことによる寂しさ。

詩を作るのが得意な女性が急に亡くなる。
セルヒオはスパイ活動を辞めることに決める。
虐待なし、家族が老人ホームに会いに来ることの大切さを報告する。

2日後、手続きを終え、セルヒオは老人ホームを退所する。