ロックウェルアイズ

恋するけだもののロックウェルアイズのレビュー・感想・評価

恋するけだもの(2020年製作の映画)
4.6
とある田舎町で過去を隠し、働きながら暮らしている小心者の宙也。
彼は日常的に職場の社長や同僚から暴力を振るわれていた。
ある日、その中の1人の栞からこの町を抜け出すことを持ち出される。
集合場所にしたバーで出会ったのは女装をした江野祥平と名乗る不審な男(女)。
それぞれの恋心が暴走する、血みどろのラブストーリーが幕を開ける。

これこそが正真正銘の恋愛映画だよ!
白石晃士監督が自身の『恋のクレイジーロード』をリメイクした本作。
白石監督の作品はまだほんの一部しか観れていないが、どれも本当に愛に溢れている。
その愛は恋愛だったり、性愛だったり、映画愛だったり、ホラー愛だったり様々だけど、その中でも本作は色んな方向に愛がダダ漏れているとんでもないノージャンル映画の傑作だった。
救世主、ヒール、ヒーロー、バケモノ、ケダモノ、雑魚、脇役。
どのキャラのどの個性もキラキラ輝いていて幸せそうで、何よりコロコロ変わる斬新な展開に胸が熱くなる。

かぐや様じゃないけれど、恋って戦なんだとつくづく思った。
信じて裏切って嫌がって受け入れて愛して殺す、そこまで行っちゃうのがこの映画の恋。
好きになっちゃったんだもん、仕方ないじゃん。
ただただ純粋なその好きという気持ちで今際の際まで突っ走る。
バケモンにはバケモンぶつけんだよ精神がこんなところにも活きていて映画をさらに盛り上げる。
今このレビューも観賞後の熱量だけで書いている。生きるってそういうことだろうよ。

笑っていいのか悪いのか、シリアスなのかコメディなのか、自分の感情がグチャグチャになる感じもたまらない。
江野祥平の廃工場入場シーンとか笑うしかないけど、宙也の懺悔シーンなんかを見ると笑ってていいのかなとか思ってしまう。
ただ、もう一度整理しよう。
主人公は窮地に追いやられると覚醒してバケモノになる、そして女装した変態から理不尽に惚れられる、という映画。
やってることは本当にアホ。冷静に考えれば本当にバカなストーリー。
笑っていい、いや笑うべき。少なくとも白石監督の映画は絶対に笑った方が良い。

あとはやっぱりなんといってもキャストが魅力的。
見事に二面性を演じ切っている田中俊介さん、いくらなんでも最高すぎる。
ケダモノの時のカッコ良さ、普段の時のカッコ悪さ、ありゃあ惚れるわ。
「ちょっと休憩……」
「俺のこと好き?」「俺も好き」
「死ぬなよバーカ」
低音ボイスに男ながらキュンキュンしちゃった。
特に「俺のこと好き?」のところ1分くらい動けなかったもん。
そして、我らが宇野さん。
最初は宇野さんが女装してる江野さんだと思うのに、そのうち本当にヤバい江野ってやつに見えてくる。
そして、最後には女装した江野さんに戻っている。
江野祥平だけで1000年は保つな。
上のしおりさんも性癖にグサグサ刺さったし、他の役者さんもみんな心の底から芝居されててとても良かった。
※ジロー役の大迫茂生さん、最近よく見かけるけど今回もインパクト強くて良かった。

場転もキャストも片手で数えられるくらいしかないのに、この熱量と破壊力。
愛という勢いに一瞬にして圧倒されてしまった。
江野祥平シリーズもっと掘り返して観ていきたい。