Google GlassのCM用に手掛けた2分間の”Seeds“でYouTubeの再生数が24時間で100万回を超えたことにより話題となり、ニューヨークのグーグル・クリエイティブ・ラボに招聘されてキャリアをスタートさせたAneesh Chaganty脚本監督作。
アニーシュ・チャガンティ監督デビュー作の"Searching“(2018)でも共同脚本兼プロデューサーを担当したSev Ohanianが本作も歴任。
映画の題材は明記されていないが、2015年にアメリカのミズーリ州で起こったディーディー・ブランチャード殺害事件を下敷きに着想しているのは間違いないだろう。
事実は小説より奇なり。
このディーディーの事件を調べれば調べるほど吐き気を催す。なんなんだこの事件は…。それも本作を見た後だと、容易に画がリンクされて余計に胸糞悪い。
【代理ミュンヒハウゼン症候群】という精神疾患は、代理された被害者にとっては、とっても厄介ではた迷惑な上に決して抵抗することができないというのがまた…何とも言えない気持ちになる。
自分よりも弱い立場を狙うというのが、社会というものを築き上げてきた人間の本質なのかもしれない。
人間が起こす恐怖が何よりも恐ろしい。
その恐ろしくはた迷惑な母親ダイアンを演じたSarah Paulsonがなんと言っても素晴らしい!
やはり顔が秀逸。可もなく不可もなく、そこら辺の田舎に歩いてそうな市井の人の顔をしている。この顔をがねダイアンという役にピタリとハマっている。
この恐ろしい母に対峙する娘のクロエを演じるのは、実生活でも車いす生活だというKiera Allen。車いす生活者だからこそ分かる機微を繊細に演じていたと思う。
健常者が演じるのとでは真に迫る熱量に差があると思う。
特に部屋の鍵を閉められてからの彼女の行動は素晴らしい!延長コードを何本も結んで命綱にしては心もとないなぁ…さらに水を口に含んで、はて?と思っていたら、驚きの方法を!
熱したハンダコテを窓ガラスに当てて、そこへ口に含んだ水を吹きかけると…ガラスが見事に割れる。素晴らしい!こんなアナログな方法があるのか…それをインターネットもない地頭だけの彼女が知っているというのも、優秀さが伺えて、さらに応援したくなる。
はた迷惑な母親の圧倒的な理不尽さに、どうにか逃げおおせてほしいとホラー映画というよりも応援上映のスタイルで前のめりの鑑賞となった。
7年後…
というラストは要らねえよ…なんで余計なことするんだと不貞腐れていたら…!!
いみじくも『ファーザー』との2本立てとなったのだが、どちらの作品も、ほぼワンシチュエーションという限られた自室の中で、全く飽きさせることなく毛色の違うオモシロさを提示してくれて嬉しくなると共に、まだまだできることはあるのだなぁと世界の映画人に嫉妬にしてしまう…。