まぬままおま

あなたみたいに、なりたくない。のまぬままおまのレビュー・感想・評価

4.0
川崎僚監督作品。

めちゃくちゃいい。なんで日の目をみてないのか謎だ。

地味なOLの28歳・鈴木恵。彼氏はいないし、周囲も婚活をしておりプレッシャーを感じ、結婚相談所への入会を決意する。同じ職場には生涯独身のような中年の先輩OL・小山聡子もいる。休日出勤をしてくれるから頼りになるのだが、それは裏を返せば休日に何もすることがない「終わった人」ということでもある。だから「聡子みたいに、なりたくない」恵は、男たちと次々に会っていくのだが…。

恵は、結婚条件に「普通の人」を挙げるのだが、これがなかなかに難しい。普通のサラリーマンは、普通だから話が盛り上がることも彼女を立てることもない。顔がいい男は、お店は予約していなかったり、ヒールを履いた彼女をエスコートする気もない。金がありそうな男は、クチャラーで女を下にみてるクソ野郎で散々だ。唯一、いいと思った男は、顔も食べ方も性格もいいのだが、海外赴任の話でたじろいでしまう。

彼女が男たちの所作にがっかりするのは、「普通の人」ではない瞬間を目撃するからだ。けれど彼女が思い描く「普通の人」とは、特別に豪華であるわけではないけれど、恵が何にも努力せずとも快しか与えてくれない男である。それはとても他力本願で自己中心的な発想でしかない。

恵はいいと思った男とちょっとしたいざこざになりーそれは彼が悪いわけではなく、彼女のたじろぎが原因なのだがー、聡子に助けてもらうといったドラマが起こる。彼女は聡子の部屋に招かれるのだが、そこで聡子には友達がいることー惣菜屋の人と仲良く話すショットがあるーやドールハウスの趣味をもっていること、そして幸せに暮らしていることが分かる。極めつけは聡子が恵に向かって「あなたみたいに、なりたくない」と言わせることだ。これには痺れた。「終わった人」は聡子ではなく、周囲に流されて自己を確立していない恵であることに気づかされるのだ。

恵は聡子との一夜の出来事で、変化をきたす。いい男ともう一度向き合いー実は彼がやったストーキングと同じ手法で、それにも笑ったー、結婚相談所への退会を決意する。なんだか彼女の将来が好転したような気がして、清清しい気持ちになるのだ。

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そうはいっても身体の問題はあると思う。恵は自立/自律した個人を確立したことでハッピーエンドを迎えるのだが、それはリベラルな価値観だとも思ってしまう。

恵が聡子を「終わった人」と思うのは、結婚をしていないようにみえて、それがひとりの女として社会的承認を受けていないと感じたからだ。それは確かな理由ではあるが、出産のこともあるだろう。男性に比べて女性の婚期が短いように感じるのはー実際に結婚相談所でそのような言及の描写があるー、出産が可能な年齢が限定的だからだ。恵が聡子のように生きることを決断するのは確かに良い。だが、聡子は、結婚しているが子どもがいないように見えるから、聡子みたいに子どもがいない人生を選ぶことは大きな判断だと思うのである。

もしも恵が子どもが欲しいと思うなら、自立/自律した個人を目指し、料理を始めるのではあまりにも遅い。身体の時限は彼女が自立/自律することを待ってはくれないし、延長もしてくれない。だから産む性であることと個人の確立の間に葛藤が生じ、それが結婚の問題になるのである。この身体の問題を省いたことは、監督の立場性も関わってくると思うし、作品の大きな欠陥でも全くないのだが、留意しておく必要はあると思う。