アニマル泉

野獣の青春のアニマル泉のレビュー・感想・評価

野獣の青春(1963年製作の映画)
5.0
清順は言う。「日活の映画は物語が単純だからお客はみんな分かっている。だから筋の枝葉は何をやってもいいと思っちゃう。キャバレーを普通に撮らずに鏡ごしに撮っちゃう。これがいけないんだよね」恐るべし清順!
本作で特筆されるのは「壁」だ。野本組が経営するナイトクラブのハーフミラーの壁、半地下のVIPルームから店内が丸見えになる、VIPルームは完全防音になっていて店内が無音で踊るバックで銃撃戦になる。そして清順の伝説になっているのが敵対する三光組の事務所が映画館であり、壁がスクリーンの裏になっている奇抜な設定だ。ジョー(宍戸錠)が小野寺会長(信欣三)と敵対する場面は子分が銃を抜くがバックのスクリーンも発砲場面になり同調する。この設定は「セーラー服と機関銃」で相米慎二が見事にオマージュしている。後半、ジョーが負傷した三波(江角英夫)と逃げる場面、奥に警官が行き来する壁沿いの縦路地の空ショットで、壁の中から二人の声だけが聞こえるのが面白い。いわゆるオフショットを清順は戦略的に使う。ジョーが野本会長(小林昭二)に拷問される凄惨な場面、ガラス窓に押し付けられて鼻が潰れて指の爪をナイフで剥がされるのをガラスごしに撮る。
清順十八番の「高さ」の主題は、武智(郷鍈治)の真下からライフルを三波が突き出すのが意表を突く。野本組の麻薬取引の現場から三光組が現金を奪う場面、土手の坂道、さらに「矢切の渡し」の川なのが清順だ。野本組と三光組の激突の場面では小野寺が野本の邸宅に車で突っ込んで自爆する、廃墟の中で逆さに「宙吊り」されているジョーと野本会長の対決が見せ場だ。廃墟の中に清順は赤い大階段をしっかり残している。ジョーが仕返しに野本の指を3本打ち落として野本が大階段を落下する。
「車」と「銃」が出てくると清順作品は活き活きしだす。本作の車の銃撃戦が見せ場だ。ジョーと三波が武智の部屋で待ち構える場面、武智の部屋が戦闘機の模型がいっぱい吊るされているのも異様だが、この場面の三波と武智の撃ちあいはお互いに銃口を突きつけたまま相撃ちする凄まじさだ。本作はどちらが拳銃を抜くのが早いかをやたら競い合うが、これは距離ゼロで拳銃を無効にする究極の殺し合いだ。「殺しの烙印」でナンバー4の大和屋竺が相撃ち死する場面に繋がっていく。
「水」の主題、シャワーを浴びるジョー、ジョーと竹下(木島一郎)の回想場面は土砂降りの川べりで二人はずぶ濡れになる。
清順の「赤」は冒頭の白黒の竹下の殺害場面にパートカラーで浮かぶ赤い花、くみ子の家の庭に咲く赤い椿、ラストの地面に落ちたパートカラーの赤い椿、赤と白の電話などだ。
麻薬とコールガール組織の摘発は清順が何回か取り上げてきた題材だ。本作は電話がどこに繋がっているのか、そして声が重要になる。
最後に本作の魅力は個性的なキャラクターだ。アル中の小沢専務(金子信雄)、猫を溺愛するナイフ投げの名手でサディストの野本会長(小林昭二)、野本の弟・秀夫(川内民夫)は美少年だが逆上すると相手の顔をナイフでズタズタに切り刻むサイコパスだ。野本が佐和子(香月美奈子)を鞭打ちにする場面はいきなり屋外が黄色い猛吹雪になり、その中でサディスティックに興奮した野本が佐和子を犯すという異常な展開だ。さらに片腕がない小池朝雄、女と酒は苦手ですぐ騙される三波(江角英明)、妙に色っぽい佐和子(香月美奈子)と武智の情婦で三波が一目惚れする桂子(星ナオミ)といった過剰に個性的な面々が次々と本作を活性化させている。
カラーシネスコ
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