現実のアメリカ社会をうまくトレースして、"もしも巨大彗星が地球に衝突したら?"という『ドリフ大爆笑』が生み出した名物コント「もしもシリーズ」を超豪華俳優陣で緻密に映像化したAdam McKay脚本・監督作。
2019年にAdam McKayが自身の制作会社"Hyperobject Industries"を立ち上げて作ったNetflix映画。
劇場で再上映されるタイミングを待って、ようやく下高井戸シネマで鑑賞。公開当時に見逃したものを見るのに使う劇場なのだが…いまは亡き三軒茶屋シネマ同様に椅子のクッションのヘタリ具合が半端じゃない!低反発というよりNO反発でペラペラ……クッションの役割を果たしてない。
痔持ちには、この椅子に2時間座ってるのがとても辛い。どうにか座面だけでもリニューアルしてくれたら幸いなのだが…
ということで折角スクリーンで見れたのだが、お尻のポジショニングの為になかなか集中できなかった。
スクリーンサイズ、画面の明るさ、音量、防音の高さ(外の音を中に入れない)、お客さんの質など、映画を見る上で様々な要素がその時々に自分に影響してきて、映画の印象を変えてしまう。
痔に優しい椅子も重要な要素である。
作品そのものと何も関係ないのだが…
より集中できる、入り込める要素があるだけで、作品の印象は何%も上がると思う。
シネコンなどに用意されているエグゼクティブシートやデラックスシートは値段が高いだけあって、お尻に優しく没入感が高い。財布には優しくないが…
シネコン方式は、あまり好きではないのだが、やはり新しいだけあり設備が充実しているところが多いので、シネコンでかかっていればシネコンを選んでしまう。
映画館で見るのが絶対的にオススメだが、どこの箱で見るのかも重要である。
ということで、あまり集中できなかったので、スマホの小さい画面で見返すことに…
劇場で見た時に何か引っかかっていたのだが…面白いと感じながらも、なぜか退屈な瞬間が何度もあってウトウトしてしまう。
それはヘタった座面の所為だとばかり思い込んでいたのだが、スマホの小さい画面で見返すと、その原因は細切れの編集にあるのではないか?
とにかく細かく細かく、ひとつひとつのカットを短く細切れにして、たくさん繋いでいく。スマホの画面で見ていると、それが際立っているように感じた。
これは飽きられないようにする工夫?
Netflixのマーケティング戦略に則って敢えてやってるように感じるのだが…
『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』(光文社新書)の著者である稲田豊史氏は、「映像作品を倍速視聴したり、10秒スキップしたりする習慣は、若年層の間ではほとんど当たり前になってきています。2021年3月の民間調査では、20代全体の半数近くが倍速視聴経験者でしたし、私が2021年12月に講義した青山学院大学の調査(2〜4年生128名を対象)では、倍速視聴を「よくする」「ときどきする」が66.5%、「あまりしない」も足すと87.6%が倍速視聴経験者でした」
倍速視聴や10秒スキップが若い層で当たり前に行われているのはNetflix側も当然データとして持っているはずである。
どうすれば、それをさせないか?
いやNetflixからしたら、見てくれるのであれば別に倍速視聴でも構わないのか…
とにかく細かく細かく多くのカットを繋ぐのは、Netflixのマーケティングの結果、当方から口添えがあったと思われる。勝手な想像だが…
私からしたら細かく細かく切ることで、テレビのチャンネルをコロコロとザッピングしているのと同じ印象を受けてしまい、逆に集中力が削がれてしまう。
細かく切れば切るほど、ひとつひとつのカットに重みがなくなっていく。それはもうどうでもいい広告と変わらない。
別に見なくてもいいか…と眠くなってくる。
倍速視聴や10秒スキップをやらせないように工夫した結果、逆におじさん層が眠くなるという…彼方を立てれば此方が立たず。
細かくたくさん繋ぐことで、見映えの変化が起きて飽きないだろうと思うのは少々乱暴な考えかと…これはマーケティングに合わせて結果を狙いにいく商業主義がもたらす悪弊な気がする。
そういうことじゃないと思うんだけど…これから益々この傾向が強まるだろう。
本作の数日後にゴッドファーザーを見たのだが、どっしりとして重厚感がまるで違う。この重みの違いは比べてみると歴然とした差がある。
だからと言って軽いから悪いわけではないし、重ければ何でもいいのか?というわけでもないから難しいのだが…
軽いから笑いやすいということも、たぶんに含まれているだろうし…ガチャガチャしたザッピングした感じもSNSに忙しい現実世界そのものともいえる。もしかすると、そこまで狙ってるのかもしれない。
ミシガン州立大学の天文学院生ケイト・ディビアスキーを演じるJennifer Lawrenceの鼻ピアスに赤毛のツーブロックとファッションが最高にイケてる。ジョナヒルにコスプレと馬鹿にされていたが…イヤイヤ格好良いと思いますよ。
オープニングからケイトはWu-Tang Clanの"Wu-Tang Clan Ain't Nuthing ta F' Wit"をイヤホンで聴きながら口ずさんでるのがまた最高。
天文学の院生でウータンクラン好きって…もうそれだけで好きになっちゃうよ。そんな設定を書いても実在感ないかも⁈と途中で消してしまいそうなキャラクターだけど、しっかりと説得力もって体現してますからさすがとしか言えない。
このウータンクランの曲は1stアルバムに収録されている曲なのだが、このアルバムは当時高校生の兄が愛聴していたのを思い出す。
発売して間もなくなのか少し経ってからか覚えてないが、中学生の私に「ウータン最高だから聴け!」と言われ強引に聴かされたが、その当時は私の耳が幼すぎたのか全く良さが理解できなかった。
約30年ぶりに改めて聴き直したが、めちゃくちゃカッコイイ。この時にスッと良さに気付けていれば、今頃はかなりのHIPHOP通になれたのに…
今では大抵のものはYouTubeで聴けてしまう便利さ。無料で手軽だからこそ、どうしても一曲の比重が軽くなってしまう…。
学生の頃はバイトしても僅かな給料しか稼げないから、その中で占めるCDアルバム1枚分の割合は大きかった。
月に何枚も何枚も買えるわけないから丁寧に大事に何度も何度も聴いた気がする。
この弊害が遂に映像業界でもNetflixから始まった気がする。映画館でしか見られなかったものが、レンタルビデオから始まり高画質なものへ…そしてネット環境が整うと定額での動画見放題へ進化。倍速視聴、10秒スキップが当たり前に…
これでもかと次から次へとサービス過多になり、いまや人生で全てを消費仕切れないほどに巷には娯楽が溢れていて、消費者の時間の奪い合いを各業界でしているようなもの。明らかに需要と供給のバランスがおかしい。
もう大量消費社会の限界ではないか…
ミシガン州立大の天文学教授 ランドール・ミンディ博士 を演じたLeonardo DiCaprioの草臥れた中年太りのあのオッサン感はなんて素晴らしいんでしょう!
とにかく演じるとかの前に見た目の説得力が既にズバ抜けてる。元美少年の代表だったとは思えない。
日本の役者には、この実在感が圧倒的に足りない。この差はどこにあるのか?
準備期間の有無だけとも思えないのだが…
どうしても「ワタシいま演じてます!」というのが前面に出すぎている。その見た目になり喋るだけでいいはずなんだけど。余計なことしてプッシュして演じてるというのか…『劇場版ラジエーションハウス』の予告が流れていたが…もう全員でコントやってるようにしか見えない。なんでこんなことになってしまったのか…そういう脚本だからなのか?
とにかく芝居がかってるのが見てられない。予告の何秒だけでも胃もたれする。
この体たらくから抜け出せることはできるのか?
ケイト・ディビアスキーがホワイトハウスで大統領に地球滅亡を告げるのに落ち着きがなく気分を悪くして、その辺にあるゴミ箱の中にゲロを吐く。
そこへタイトルバック!
このタイミング…ふざけすぎ。
嫌いじゃない。
人類の危機を伝えに来てるのに延々と待たされる。大抵のディザスタームービーなら、トントン拍子で会えそうなものを、なかなか会えないうえにホワイトハウスの事務員の誕生日を祝う時間はあるという…この辺もね妙にリアルな気がする。
待ちぼうけを食らってるところ、ペンタゴンの中将がスナックと水を10ドルで売りつける。
翌日、中将が沖縄へ旅立つ。
ケイト、ふらりと冷蔵庫の置いてある部屋へ入って行く。
冷蔵庫から水を手にして、その場の職員に、
ケイト
「いくら?」
職員
「タダよ」
ケイト
「……ホントに?」
職員
「ええホワイトハウス持ち」
細かい!最小限の動きと台詞だけでシンプルに笑わせるのが本当に長けている。こういうところも見習いたい。日本だと余計な言い回しとか大袈裟に抑揚をつけて笑いを取りにいっちゃいそう。
マリファナのアップ。
使用済みのパイプまで……
さすが合法化が進むアメリカである。
現在のアメリカでは準州を含めた54の州の中で、大麻を合法化しているのは17の州。
ケイトやミンディ博士が住むミシガン州やホワイトハウスのあるワシントンD.C.も大麻は合法。
医療用大麻のみ合法という州は24。
違法なのは僅かに13の州のみ。
大麻の禁止を維持する方がコストがかかるらしい。
さらに大麻販売店の近隣にある家の資産価値が向上するという調査結果もあるという。すごい効果だな…
日本も合法にすればいいのに…
自殺者は減ると思うけど。
ケイトの彼
「ヌードデッサンの授業でコンロンが勃起してた。"勃起してた"と書くべきか、それとも"充血"と?」
何をマヌケなことを…
これもいま現実に起きてるよね?
どうでもいいニュースのオンパレード。
▪︎明日花キララ「だいたい整形しています!」「つい3日前も…」大胆告白 『ホンマでっか!?』初登場
▪︎ 鳥居みゆき、離婚していた テレビで初告白
どうでもいい…。
こんなものがニュース記事としてあがっていることに驚くし、しょうもなさすぎて目に入っただけで気分を害す。
スマホ断ちしたくなる。
彗星が衝突する間際でさえ、こんなくだらない記事があげられそうである。
やれやれ…もう大麻吸うしかないだろ。
◯大統領執務室
Meryl Streep演じる大統領とようやく面会。
机の上にはスティーブン・セガールと大統領のツーショットの写真が額に入っている。
細かい!スティーブン・セガールというチョイスがまたいいね。クドカンあたりがやりそうなネタ。
ミンディ博士
「1.5kmの高さの津波が地球を飲み込み、彗星が与える衝撃は広島の原爆の10億倍」
これが99.78%の確率で起こると話すと…
大統領
「70%で話を進めて」
言いそう!太々しい権力者はそう言うだろうなぁ…この嘘くさくならない微妙なラインを狙っていけるのが素晴らしい。辛気臭くなるのはもう見飽きてるし、実際にはこうなりそうだし…
大統領が動かないのでTV番組「the daily rip」で発表することに…
番組のトップニュースが、大統領が最高裁判事に指名したコンロン保安官がポルノ番組に出演していたことが…
日本のワイドショーと体質は何も変わらない。この手の番組はいい加減にして欲しいけど。
◯テレビ番組の楽屋
ミンディ博士とケイト。
Ariana Grande演じる人気歌手のライリー。
彗星のタトゥーを背中に入れているという話をケイト達に話すライリー。
この時のケイトの話の聞き方、最高!
話しかけられたから、つい出しゃばってミンディ博士が破局についてライリーに聞くと、ファックユーと一蹴される。この時のケイトの顔も最高!
細かい所作が素晴らしいね。
ジェニファー・ローレンスのリアクションだけ見ていても楽しい。台詞も話さず、ディカプリオの横にいるだけだが、キチンと細かいリアクションをしている。
オーバーにならないギリギリのところでやっているのがまたいい。
TV番組「the daily rip」のエロ司会者ブリーを演じるCate Blanchett。誰だか分からない顔してたけど、これは特殊メイクしているのか?ケバい化粧だけ?こんなに顔の印象を変えられるのか?
彗星衝突による地球の滅亡を訴えたのに、アクセス数は天気や交通情報以下…
これも現実に起こりそう…
溢れかえった情報の渦のなかで、どの情報を選択するかは利用者の胸三寸だから、どうすることもできないんだろうなぁ。
アンチ運動もすぐ起こるだろうし…
人間って本当に難しい。
なんなんだろう…。
◯大統領執務室
戦略方針を急展開させる大統領。
ケイト
「つまり、このままだとあなたは中間選挙で負ける。エロ保安官に写真を送ったのがバレたから。いまは自分の都合で彗星を利用するの?」
大統領
「そうよ」
この時のメリル・ストリープの顔がまた最高!最低限のセリフと、最低限のリアクションだけで、この大統領の輪郭を浮かび上がらせてしまう。
彗星に核爆弾を当てて軌道を変える。
これを遠隔操作でいけるのに、わざわざヒーローが必要だと…犠牲になる男を用意。
軍艦の上で声明文を読む男
「俺の分まで皆さん生きてくれ」
Jonah Hill演じる大統領の息子であり主席補佐官のジェイソン。
俺が書いた文だと勝ち誇っていると…
ケイト
「プライベートライアンのセリフ?」
ミンディ博士
「そうだ!パクリだ」
映画の中で映画を使って遊んでいる。
この箱庭的な遊び方にワクワクする。
彗星に140兆円分の資源があると分かり、政権の最高サポーターであるBASHという企業のために急遽引き返すことに。
これ…みんな核積んでるんだよね?
何機も同時に打ち上げてたけど、あれひとつひとつに核搭載されてるんでしょ?それが引き返すって?
地球に向けて何発も核を落とすようなもんじゃないの?これで人類滅亡してしまうんじゃない?
パラシュート開いてたけど…そういう問題?あんな何発も核を積んだものが地球に降ってくるなんて…恐ろしいだろ?
そこは意外にも綺麗にスルーされてたけど…
パラシュートでやんわり着地すれば爆発しないのかな?逆噴射でゆっくりと着陸できるような設備?戻ることなんて想定してないから、そんな余計な機能付けないだろうに…
Uターンする画づらは怖かったけどね。
BASHと政府がホットラインを設置して様々な質問に答える。
その主席科学顧問となったミンディ博士は自らが広告塔となり政府の犬と化す。
そもそも民間企業のはずのBASHが政府と一体となってることに何の疑問も思わないのか?でも……現実には官民一体なんてよくあることか…怖いねぇ資本主義は。
TVのニュース
【衝突否定派】
「彗星に雇用を期待する人が多いなか、衝突を望まない人が37%で3%ダウン。23%は彗星の存在を否定、この数字は上がってます」
Just Look Up
vs
Don't Look Up
この対立の構図はコロナ禍により誰もが割と身近に感じられるようになった。
マスクvs反マスク
ワクワクvs反ワクチン
別に二項対立にして争うことでもないのだが…世の中の流れに逆行しようとする力は、その分強まると思う。ワクチンを打つ打たないも別にどっちでもいいけど、打たないと決めてる人こそ攻撃的になっている印象を受ける。
◯車内
ミンディ博士の運転、助手席にケイト。
後部座席に現代の美少年代表のTimothée Chalamet。
新旧の美少年が並ぶと…20年後のシャラメ君も非常に楽しみである。
カーステから…
The Mills Brothers
"Till Then"
が流れる。
この曲は第二次世界大戦で故郷を思う兵士の歌で、ミルスブラザーズはデューク・エリントンが発掘したとミンディ博士。
このグループ知らなかったが、めちゃくちゃ好み。いいものをまた教わった。
ジョナヒルの台詞は、ほぼアドリブらしい。どんだけセンスいいんだよ。
そしてディカプリオの最後のセリフもアドリブだとか…
ミンディ博士
「考えてみると、みんななんでも持っていたんだな…そう思わないか?」
これをアドリブで入れ込むのか…
脚本のセリフを超えてくるセンスって…どんだけ高いの。
製作・原案のDavid Sirotaは2020年の米大統領選でバーニー・サンダースのブレーンだったという。
だから政界の裏事情にも長けているわけだ。妙にリアルなわけだ。
アダム・マッケイ監督・脚本
「私たちが生きる、このひどい時代を描いた脚本です。多くの俳優がこういう本を求めていたのでしょう。右派であれ左派であれ、私たちはみんなこの混沌に足止めを食らっていたんだから」
アダム・マッケイ監督・脚本
「見かけ倒しの白人男をテーマにしたコメディをウィルと作り続けてきたし、それが本当に面白かったんですが、文化の破壊に気づいてからは笑えなくなりました。金融危機、極右の台頭、気候変動、経済格差の拡大。昔ながらのコメディを作るのは理にかなわなくなった」