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のさりの島のmasayaのレビュー・感想・評価

のさりの島(2020年製作の映画)
4.4
オレオレ詐欺の男が天草の楽器店の女店主に言葉巧みに取り入るが、このお婆さんが超食わせ者で、二人の奇妙な同居生活が始まる。戸惑う男、とぼけ顔の店主。嘘と嘘が噛み合った毎日。彼女の人生とリンクする、寂れた商店街の重層的な歴史を背景に、人が必要とする繋がりの本来の在り方を指し示す。

二年前に公開した時には時間が合わず、テーマも地味そうな気がして優先順位低かったんだけど、今回たまたまリベルテの上映とタイミングが合ったので観にきたらめちゃめちゃ良かった。一年に一本しか映画を見られないとしたら、こんな映画を観たいな。

女店主の人生が銀天街商店街の沿革をなぞるようで、その人のように、その町(島)が"のさり"と名付けて受け入れてきた全てを思った。目の前にあるものは否定せずに受け入れる。それは寛容さでもあり矜持でもある。したたかさであり諦めでもある。

ローカルFMのパーソナリティの女性が商店街の古いフィルムを探すサブのプロットがもっぱらこの映画を前進させるのだけど、訪れるカバン店やたい焼き店、カカシ作りの工房とそれぞれにテーマを深化させる効果を持っていた。人が居なくなってもそこに残っている地霊のようなものがある。

「記憶の断絶」を描いた映画でもあった。ある世代までは人生で重要な分岐点になった大きな出来事があって、ただそれは時を経つにつれて風化していく。今寂れている商店街がかつて栄えていたこと、さらにその前に起きていたこと。それが一つながりで現在があること。断絶を繋ぐのは記憶であり、記録だ。

ブルースハープのかっこいい劇伴始まったな→そこで吹いてんのかい!はちょっと面白かった。誰も居ない商店街の街角での激ウマ演奏シュールすぎた。灯台下暗し。
ブルースハープの女の子に限らず、どの登場人物もストーリー進行の為にただ置かれただけの存在じゃなくて、その人ごとの生い立ちを背負った生きた人なのが良かったなあ。自販機ベンダーの兄ちゃんとかね。
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