みかんぼうや

喜びも悲しみも幾歳月のみかんぼうやのレビュー・感想・評価

喜びも悲しみも幾歳月(1957年製作の映画)
3.7
「二十四の瞳」をはじめ数々の昭和人間ドラマを生み出した木下恵介監督の161分という長編作。仕事柄、日本全国を転々とすることになる灯台職員(佐田啓二)と1度のお見合いで結婚したその妻(高嶋秀子)、この2人の結婚直後からの25年間の生活を描く、鉄板の木下流昭和大河ドラマ。

たった一回のお見合い結婚にも関わらず、日本全国各地の僻地ともいうべき場所で時に困難がありながらも夫婦がお互いを信頼し続ける姿や愛する子どもを育てていく分かりやすいストーリーには、驚きや興奮こそないものの、心に沁みるものがある。

灯台を守る、という地味ながらも人々の安全にとって非常に重要な仕事の職務を全うし家族を支えようとする夫、そしてどんな時でもその夫を支え、特に子育てに関しては夫以上に遥かにどっしりと構える力強い妻。昭和の夫婦の理想像を描いたような作品ながら、夫婦の信頼関係という普遍性には胸が熱くなるものがありました。

一方、ある人物の二十数年間の生活を描く、という“木下大河フォーマット”は「二十四の瞳」、「二人で歩いた幾春秋」ほか複数の作品で既に体が慣れているため、映画としての新鮮さはだいぶ低く、こと長期間にわたる夫婦関係や親子関係というテーマでは、主演夫婦も全く同じでタイトルも似た「二人で歩いた幾春秋」とテーマ自体が酷似しているため、本作はその長尺版、という印象を持ってしまいました(設定や内容はもちろん違うのですが、テーマと展開がかなり似ているので)。

いわゆる「小津作品って、どの作品も安定して面白いけど、似たような作品多いよな~(特に父娘関係)」と思う感覚に近いです。

ただ、全国の様々な灯台を支える灯台職員の家族生活を覗くのは初めてで興味深かったですし、内容も安定して面白いです。が、個人的には同テーマだと60分短い「二人で歩いた幾春秋」のほうが胸には刺さりました(「二十四の瞳」は長期間を描くものの、夫婦ではなく先生と生徒の関係なので、これらの作品とはまた全く異なります)

そう考えると、同じ二十数年の夫婦関係を描いた作品の中でも同監督の「永遠の人」は相当尖った作品だったのですね。木下作品はこれからも色々観るつもりですが、しばらくは恋愛や夫婦関係より、また異なる人間関係の作品に目を向けたいなと思います。
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