ニュー・アルゼンチン・シネマ（NCA: Nuevo Cine Argentino）を牽引し、“Master of Deadpan Comedy”（デッドパン=出来事の可笑しさに対して「何とも思っていない/何も感じていないよう」に無表情で反応する喜劇表現。ドライユーモア）と称されるというMartín Rejtman監督の初長編作。
アルゼンチン映画批評家協会賞 Best First Film

バイクに二人乗りで走る主人公の若者ルチオ。突然後ろの男がナイフを突き付け、バイク、財布の中身、スニーカーをあっさり奪われてしまう。友人かと思いきや見知らぬ男を乗せてやっていたようだ。
真夜中だが、いつもつるんでるダチのダミアンの家を訪ね、金を借りバスに乗るが運転手から偽札だと降ろされ、徒歩（裸足）で帰る。

デジタル腕時計を友人から回収し、突然床屋に入り丸刈り（原題『Rapado』スペイン語）にして、街をぶらぶらし、路上でバイクを盗んでる若者を目撃。そのバイクが少し先で放置されているのを見てまたがりエンジンをかけようとするがかからずやめる。

これぞ“デッドパン”でしょうか、このルチオがほぼ無表情で、失業中なのか何かしてる様子もなく、ダミアンとつるんでゲーセンでぶらぶら、家では干渉しない両親と淡々と食事（母は突然祖母が亡くなり一人でカナダへ。父も何かしてる気配もない）という日常がだらだらと流れる中、少ないセリフ、漂う不思議な可笑しみ。笑

その後、ルチオはバイクを盗難しようとロックをノコギリで切断してる途中に持ち主に見つかり未遂に終わった後、ぶらついてたレコード屋の前に停めてあったスクーターを盗んじゃうんですが、その後も可笑しみ漂う展開。
相棒のダミアンは、ルチオが盗まれた時と同じ手口（ニケツしてもらいナイフで脅す）でやろうとするも、相手に投げられ終了。笑
ルチオの母がタバコ買ってきてと渡した札も偽札だったり、カナダから戻ると何故か派手に変身してるし。笑
前半と後半に出てくるグスタボという青年とルチオの関係も不思議。

これはクセになる系の監督ですね。
mubiにて。

ないと生きていけない大切なバイクを盗まれた青年が人生が変わると思ったらそこまで変わらなかった話。日本では考えられないような日常茶飯がデッドパンなネタになっていて、様々なネタの繰り返しが日常に溶け込んでいてシュール。それでいてちゃんと伏線になっているのもあるし。割と好き。

この冴えなさ、どうしようもなさは山下敦弘作品を彷彿とさせる。ブエノスアイレス、良い街だけど確かに気が抜けない治安の悪さなんだよな…。