ネブュラー

ヤクザと家族 The Familyのネブュラーのレビュー・感想・評価

ヤクザと家族 The Family(2021年製作の映画)
5.0
ヤクザという日本で育まれた一つの文化の衰退、士農工商の時代に近しい、ある生い立ちのサイクルが生む悲劇。
スターサンズ、藤井道人監督、「新聞記者」同様、日本が抱える暗部を切り取る。
日本社会のシステムに組み込まれてきたヤクザというコミュニティという触れることのない非現実さ、極端さは、日本の現実そのものであり、ヤクザに限らず、日本における一度レールを外れた人間たちの社会復帰の難しさ、さらに人生100年時代の中で変化に適応できず取り残される中高年サラリーマンの姿まで浮き彫りにしているよう。
レッテルを貼られ、分離を余儀なくされ、社会的に迫害される中で、居所を求めるものは家族。
血筋としての身寄りがない綾野剛扮する山本が求めた場所は、精神的につながりを感じることができる絆や愛だが、時代の変化とともに、その原始的でありながら、ある種強制された絆を否定され、破壊されることになる。
その閉塞感と絶望に満ちた悲劇性は、自分事のように恐ろしく、ヤクザ映画としての超醍醐味でもある。
元ヤクザ・作家の沖田臥竜さん監修のもと、時代とともに変容していくヤクザの姿の裏打ちされたリアルさ、一方どの時代シーンでも映り込む煙突から立ち上がる煙は本質的な姿を変えず、それは山本が体現する変わらない義理人情、しのぎが変わったとはいえヤクザしかできない高齢組員たちの姿を表すよう。
この噛み合うことを許されないといってもよい社会事情が生み出す底知れない絶望に近い心情、悲劇性が、「家族」というテーマ以上に心に突き刺さり、エモーショナルにさせる。

これは絶望のランボー・クロニクルだ。ゴッドファーザー的構成や深作映画を彷彿とさせる手ぶれ感。
クラシカルな雰囲気もありつつ、エンターテイメントでは済まされない心にずっしりくるものを残していく。
なんといってもキャストが全員素晴らしく、怒声にまかせるというよりは心情に寄り添った演技が素晴らしい。
『孤狼の血』とはまた毛色が違う、というか従来の抗争メインとはまた異なる現代ヤクザものの金字塔になるだろう作品。映画館で見るべし。
ネブュラー

ネブュラー