チーズマン

ノマドランドのチーズマンのレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
4.0
一見淡々としているようでいて、とても大きな映画でした。

日本で使われるような「さあ、リモートワークで夢のノマド生活〜」とは全く違う感じのノマドです。

今作で言うノマドとは、不安定な季節労働の現場を渡り歩きながら車上生活者をする人達のことです。

ジャオ監督の前作『ザ ・ライダー』も主人公がアイデンティティを喪失した先に自分の生き方を見つけるまでの小さい話、しかしそこからアメリカとは?みたいな大きなものが浮かんでくるような作品でした。

この『ノマドランド』は同じような方向でも、さらに間口を広げて一箇所に留まらずに様々な場所の人や自然との対話の中から大きな何かが浮かび上がってくるタイプで、規模が膨らんだ分『ザ ・ライダー』よりも更に大きく包みこむような余韻を目指した映画だと思いました。

あえて言うなら『ザ ライダー』で描かれる範囲がほぼ1家族分の人間と場所だったのが、今作はスケールを大きく引き伸ばして間口を広げた分、その広さを把握できるような距離感で観ないとなかなか良さが味わえないなかもしれません。
様々な人や自然との対話の中から少しずつ全体像が浮かび上がるような作りなので、近くからピンポイントで見ると形が掴みにくいかもしれません。
『ザ ・ライダー』よりも更に言葉で説明しにくいタイプの余韻になってるのが面白いですね。

だから雄大な自然風景で語ってるわけで、これは映像に浸ってもらうしかないですが。

その道(車上生活)のベテランかというぐらいに自然に演じているフランシス・マクドーマンド以外はキャストの多くは実際にノマドとして暮らしてる人達が実名で出演しているようで、実際確かに明らかに存在感が違います。
その実際のノマドの人達にフランシス・マクドーマンドが出会っては次々と人生話を聞いていくようなドキュメンタリックなリアルさもあって、その不思議な感覚はすごくクロエ・ジャオっぽいですね。


アメリカの雄大な自然と人、心の中に“home”を持つという生き方。
心の中に家があるということは地球が家だというのと同じことで、そこから見える景色や感じる事はきっと我々とはちがうものだと思います。

劇中のセリフで出てくる「“さよなら”がない生き方」という言葉が、まさにこの作品を表していたんじゃないかなと思います。


そして良かったのは、ノマドとしての生き方が素晴らしく見えるように描きながらも、孤独や金銭的困窮などの負の側面もがっつりと描いているところですかね。
むしろその負の側面の対応に追われることに多くの労力を費やしたりしてるわけです。
単に気楽な生活、とはほど遠い面があります。

特に、一見資本主義とは違うところで生きているように見えて、実際はAmazonの季節労働で雇われるという、この皮肉さ!

じゃあ、なぜそうまでしてわざわざノマドとして生きることを選ぶ人達がいるのかという、つまり人それぞれの生き方の選択の話になってるのがすごく良かったです。

人生について説教してくるわけでもないし、ノマドを押し付けてもこない、そこがこの映画の魅力だと思いましたね。


あと、この作品は円環構造になってますが、その序盤と最後に流れるピアノのメロディがすごく良いんですよ。
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