阪本嘉一好子

もう雪は降らないの阪本嘉一好子のネタバレレビュー・内容・結末

もう雪は降らない(2020年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

『I am waiting for you.』(なぜここだけが英語なんかなあ?)と誰かが(死んだ母親)ゼーニャ(アレック・ウトゴフ)の宿舎のドアの下にメッセージを残した。ここから私はこの映画の意味がはっきり理解できた。ゼーニャは救世主のような存在で、スーパーヒーロー。どの家庭に催眠術・マッサージ師として訪れても、ようこそと出迎えられるだけでなく、待っていましたというばかりの応対だ。マジックが使えるばかりでなく、マッサージをする彼の指は人の心も癒すことができる救い主的存在だった。その彼は多くを語らず、FCシャフタール・ドネツクのファンだと子供に伝え、ウクライナのプリピャチから来たと顧客に言っていた。顧客はチェルノブイリ原子力発電所事故によって住民が避難し、無人となっているのを知っているから、あまり多くを問い詰めない。でも、明らかに、1986年に起きたチェルノブイリ原子力発電所事故で母親を亡くしたと感じさせる設定になっている。なぜかというとゼーニャがゲート・コミュニティーに入り込んで、施術をして回っているとき、守衛に呼び止められて、酒を飲むシーンがある。ここで初めて彼は本音を出して、『自分の道は雪の下で見ることができない』と言っている。この場合の雪は 放射性ダスト,放射性ちり の例えである。36年過ぎても、まだ故郷には戻れない。そして、『外国の土地にいることは簡単じゃない』と守衛にいっている。ヴィザがあっても外国で暮らすことは大変じゃないのに、彼の場合は不法侵入だからもっと容易ではないだろう。ポーランドの人々を癒せても彼の心は外国土地を彷徨っているのだ。原発事故の無惨な様をここで監督は捉えていると思う。

そして、前に戻り、かんのつよい彼は、『I am waiting for you』のメッセージの送り主を追いかける。
核爆発の後で地上に降ってくる放射性の細かな粒子は空気の中を泳いでいると。彼は子供の頃、この状態を母親に、『雪のようだ』と。母親は『ゼーニャは冬が一番好きだったね』と。そして、『雪のマジックが静かに降ってくる。二つ同じの結晶は2度と見つからない。』雪は毛布のように大地を覆い、
ゼーニャは雪はパワーがあると信じているようだ。また母親は『ゼーニャはスーパーヒーローだった。何かを欲せれば、そのようになる』と。それからはゼーニャはもっとパワーを増してスーパーヒーローになっていく。母の姿が窓の外にあるかと思ったら、犬だった。それを思わず抱きしめるゼーニャ。『I am waiting for you』から、ここまでのシーンの母の言葉は私の心に安らぎを与えた。私の心も和ませてくれた。いいシーンだ。

この映画背景は全く知らず、ウクライナという文字が飛び込んできたので、借りてきた。まずは、何語だと不思議に思ったら、ポーランド語らしい。このようなゲートのコミュニティーは他の地域に住む
人々との区別をするだけでなく、購入する時、一度に何軒も建築するだろうから価格も似ていて、ますます、似たような生活を送っている人々の巣になると思う。ポーランドことは知らなくても、中流より上の人々が住んでいるように察する。それに、夫は外で働き、女は自宅にというパターンも見える。 以前共産圏の国だから、男女とも働くと勝手に私は勘違いしてたようだ。子供の一人はI-Pad! ジュースと親を使っていて、しまいに、唾を吐きかける始末だ。 唾を吐きかけるのはどこから学習したのかと不思議に思った。この子供は不法入国者とりしまりが来たときゼーニャのことをスーパーヒーローだと言ったところがいいね。

音を消して観ると、グローバル化のせいで、アメリカかなと思ってしまう。ドラッグ・アルコール・ストレス・PTSDなど各国が国際化で似てる問題を抱えてきてしまっている。夫が慌ただしストレスのある生活をし金を稼ぎ、ある家庭の子供は親がフランス語を話せなくても、『フレンチ・スクール』に通う。ブルドックにまでマッサージをさせる。地球を守るため、植林をし、その肥やしに夫の遺体を(私の理解が間違いなければ。。。)ヴィッキーの夫は幻影師(MetamorphosisーHarry Houdini)を学校の劇で。ハロウィーン、癒し。。。などなど、NATOに加入してるからって、アメリカ映画のような生活様式にならなくても。。。(ちょっと冗談)
グローバル化の共通問題点、原発の長期にわたる恐ろしさだけでなく、『癒し』というバンドエイドで一時的に臭いものには蓋をするけど、根本解決になっていないと監督は訴えていると勝手に解釈する。映画ではゼーニャが去ってから人々が癒されたように見えるが、雪に癒されたと思える。彼の存在と雪と放射性の細かな粒子は同じ意味なんだけど、人によっては受け方が違ってくる。

魔術とサイファイっぽいファンタシーのように描いているが、この作品は重く、何年たっても自分の故郷に戻れないゼーニャ。ある青年が『決して、もう雪が降らないと聞いたよ』を『降るかもね』と答えたのを最後のマジックを見せて癒してあげた。