映画漬廃人伊波興一

鬼火の映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

鬼火(1996年製作の映画)
5.0
もしD・ピープルズがこの作品を観たら「クリント、俺たちの(Unforgiven)の日本版リメイクはモチヅキとモリオカに頼むべきだったんじゃないか?」と言うような気がします。 望月六郎「鬼火」

孤高な傑作というのは確かに冷笑を受けたり無視されたりする時期を強いられる可能性が高いのには既に慣れっことはいえfilmaksでさえこの「鬼火」へのコメント数が100にも満たないのは寂しい限りです。

この作品が公開された年にもう一本の傑作「恋、極道」で京橋のグランシャトーのCМを口ずさみながら射殺される松岡俊介と小津安二郎の画を彷彿させる小学校授業参観の合掌シーンを何の違和感もなくシンクロさせるという奇跡を実現させた望月六郎の渾身の傑作なのに。

冒頭、原田芳雄がヒットマンとしての使命の犠牲となった者の墓参りをするシーンから
相手が突き付けるピストルに自らの額を当て、
ひと晩の身を任せる覚悟で臨んだ片岡礼子の服ひとつ脱がせぬまま彼女と添い寝だけして朝を迎え、
彼女の妹の復讐の心得を教えようと自らの愛犬を標的に「撃て!」と煽り、
愛する彼女のために自慢のお好み焼きを振る舞い、
彼女の生い立ちを探ろうと実家から卒業アルバムを拝借したものの怒る彼女に思わず手を挙げすぐに後悔と自責にさいなまれ、
自分が嵌めらていると充分に自覚しながらそれでも愛犬だけ残して彼女の復讐を決意して、
最後に夜の学校のプールで身を絡めあい、
深夜の体育館で彼女の奏でるピアノの音色に短すぎた幸福を惜しむようにむせび泣き、
最後は復讐を果たし二度とシャバに戻れぬ覚悟で連行されていく。

「許されざる者」というタイトルで公開されてもよかった筈なのです。