ワンコ

ピカソがピカソになるまでのワンコのレビュー・感想・評価

ピカソがピカソになるまで(2019年製作の映画)
4.2
【「アヴィニョンの娘たち」までの道のり】

ジャクソン・ポロックをして、「自分のやりたいことは、ほとんどピカソがやってしまった」と言わしめたピカソ。

キュビズムは、多くの人の知るピカソの代表的な表現方法となったが、そのキュビズムの入り口に立つ「アヴィニョンの娘たち」までのピカソのヒストリーを絵画と探る旅になっている。

個人的には、日本でも「青の時代」の絵は人気があると思うし、ドラマ「相棒」でも右京さんが「ブルーピカソ」として紹介していた。

ただ、ピカソは発展する芸術家だ。

マラガでの多様な文化とのふれあい、印象派のよう作風の作品も多い。

だが、ピカソをピカソたらしめた、きっかけは、僕は(個人的には)やはり、「青の時代」だと思う。

カサヘマスの自死によるショックは、ピカソを描く対象物の内面だけではなく、自らの内面にも向き合わせ、青の表現に繋がり、観る者の目に焼き付き、記憶にとどめる作品となった。

その後、表現方法を探求するような作品が多くなるように思えるが、果たしてそうだろうか。

原始芸術との出会いは、余計なものを削ぎ落とし、人間とは何かという根源的な問いになったのではないのか。

こうしてプリミティズムを取り入れたことは、キュビズムに繋がったとされるのだが、「アヴィニョンの娘たち」で切り取られる一瞬は、娼婦たちの驚きと、覗き見る男の視線への半ば軽蔑や、あきれる気持ちが感じられ、その大胆で単純に見えるが、それが余計なものを削ぎ落した結果だとすれば、どうだろうか。

「アヴィニョンの娘たち」を所有するMoMAのキュレーターが言うように、この絵は、様々な思考を観る者に要求するように感じる。

僕には、内面をよりフォーカスした表現になっているのではないかと思う。

映画では紹介されないが、ピカソのキュビズムの代表作は、ロンドン、テート・モダンにある「泣く女」だ。

この作品を観ると、この人はなぜ泣いているのか考えずにはいられなくなる。

そして、少し付け加えさせてもらえれば、ピカソがキュビズムに傾倒していくきっかけになったもう一つの作品がある。

ニューヨークのメトロポリタン美術館が所有する、セザンヌの「Gardanne」という風景画だ。

ピカソは、この作品を初めて観た時に、「これが完成作なのか?」と驚いだのだ。

セザンヌは、ポスト印象派の画家として、近代絵画を終わらせ、現代芸術に道をつなげた人と言われ、パーツにこそ真実があるとする作品も多い。

ピカソをたくさん観ようとすると、バルセロナやパリが思い浮かぶが、もしニューヨークを訪れる機会があれば、MoMAで「アヴィニョンの娘たち」を見て、ついでに「Gardanne」も観て欲しい。

マドリッドの「ゲルニカ」も観る者に迫る迫力で、感情を揺さぶられるが、ロンドン、テート・モダンの「泣く女」もぜひ観て欲しい。
ワンコ

ワンコ