蛸は知能が高い、とはよく聞くが、しかしただそう耳にするのと、こうして1匹の蛸に約1年間寄り添って観察を続けるのとでは、そこから得られる感覚は全く異なる。貝殻や小石を身に纏った1匹の不思議な蛸との出会い、彼女の生態、人格(?)、自然の繋がり。表情は読み取れないが、8本の手足や無数の吸盤、全身の躍動から、溌剌とした生命力が目前に感じられる素晴らしい映像だった。枠組みとしての蛸でなく、一個体としての蛸に感情移入する体験は、なかなか味わえない貴重なものだろう。この作品は、我々の人生への教訓を引き出す単なるツールに成り下げてしまうべきではない。自然と一体化することに憧れた撮影者のように、ありのままに自然の神秘、無常を体感し、その尊大さに身を委ねるのが正しい楽しみ方であると感じる。
