まぬままおま

愛のまなざしをのまぬままおまのレビュー・感想・評価

愛のまなざしを(2020年製作の映画)
4.0
万田邦敏監督作品。

妻を亡くし子がトラウマな精神科医の男・滝沢と患者の女・水野。彼は喪失を埋めるために、彼女に接近し、女もまた惹かれ合う。

正常な狂気とも言える物語。皆が葛藤を抱え、関係性を育み、つながることで変わってしまう感情、関係。それは決して自明なハッピーエンドには向かわず、愛は死に接近し崩壊する。

死人の妻の手が、彼の肩に触れる。触れたと思った瞬間、感覚は現在を過ぎ去る。触れた(はずだった)。そんな予感を抱えながら、生きていくしかない。息子をみつめなければならない。それが愛のまなざしだ。


別稿
本作のカメラワーク、演出は凄まじい。
カメラは自在に動き回り、綺麗なショットになっている。階段越しのショット、連絡通路のショット、物のショット。どれもとてもきれい。
そして演出。劇的な素振りとも言うべきもので、それは反リアリズムであるが、現実を舞台化させ、フィクションの介入を可能にする。主人公が公園でジグザグに歩行するのは面白い。ただ気になるのは、現実の舞台化の点である。本作にはユニークな場所が舞台になっている。無機質な診察室、謎の遊具がある公園、連絡通路、カフェ。ただ彼らが本当にそこに生きている感じはしないのである。あくまで舞台としてのユニークな場所、現実。
それは純映画とも言うべきもので、現実がすでにフィクション化、舞台化している昨今では、鑑賞者≒私の参入する余地が残っていない気がする。