むぅ

サマーフィルムにのってのむぅのレビュー・感想・評価

サマーフィルムにのって(2020年製作の映画)
3.9
それはもう、ロミオを見つけたジュリエットの集団のようだった。

演劇部だった高校時代。
ちょうど今頃の季節、そろそろどこに入部するか決める時期。
2年生である私の学年は6人、先輩は1人、新入生の入部確定が3人。
全員女子。
そこに1人の男子生徒が見学にやってきた。
演劇部、実は体力が必要である。
照明機材だって重いし、大道具をトンテンカンテン作ったりもする。そして何より、1人でも男子がいると次の学年に男子が増えるというジンクスもある。
歓喜した6人のクセの強いジュリエット達(我が学年である)に恐れをなしたロミオ君は静かに去っていった。毒薬を飲まれなかっただけマシかもしれないドン引き具合であった。

歓迎し過ぎは時に引かれる。
しとやかさのカケラもなかったジュリエット軍団はロミオを追って短剣で自害するどころか、短剣を振り回す勢いで文句を垂れた。
「何しに来たのさ」

でも!こちらのジュリエットはロミオを掴んで離さない。
時代劇オタクの女子高生ハダシ。
キラキラ恋愛映画ばかり撮る映画部の活動にふてくされつつも、ハダシには撮りたい映画があった。
その時代劇の主役にぴったりな凛太郎に出会ったことで、ハダシは映画を撮る決意をする。
けれどもハダシの熱意に負けて主役を引き受けた凛太郎には秘密があって...。果たして凛太郎がハダシの前に現れたのは
「何をするためだったのか」

それぞれがそれぞれに潔い。
ウジウジ悩んでいても、ゆるふわキャピキャピしていても、静かにモサっとしていても、ちょっと
やる気がなくても、不思議と潔い。
そしてみんな好きな事や興味のある事には突き進んでいくのに、恋にはちょっと奥手なところが可愛い。
時代劇に始まりたくさんの要素が詰め込まれたワチャワチャ感が、確かに高校時代の文化祭を思わせる。

小学校から大学まで演劇部だった私の関わった作品は一体何本なんだろう。どの作品も上演自体ではなく、それにまつわるトラブルや準備期間ばかりを鮮明に思い出す。ついでに、かなりの割合でみんな初監督作品、初出演を「黒歴史」と言うことも思い出した。

この時期の"好き"は濃い。
映画でも音楽でもスポーツでも、他の何かの趣味でも。
そして、誰かを想う淡い恋心さえも実はきっと。

その濃い一夏の青春ストーリー。

家の手前の坂道でマスクを外しながら思った。
もうすぐ、また、夏。

覗きに行けるならちょっとだけ見に行きたい気もする、私の心の中のサマーフィルムたち。
いや、やっぱり言えるなら言いに行きたい。
本家のロミオと、女子高生のジュリエット軍団に。
「ちょっと待て。よく考えて行動に移せ」と。
むぅ

むぅ