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パリの調香師 しあわせの香りを探してのLCのレビュー・感想・評価

3.8
面白かった。

主人公と調香師が、雇う側と雇われる側から、お互いに教え合う関係を経て、同業者として羽ばたく。見ていて素直に嬉しくなる。

主人公から人との関係の築き方、というか、そのとっかかりを教えてもらった調香師が、病室で「あなたと関わるのは嫌」と言えたことが凄まじい。成長速度がマッハ。
人と打ち解けることができない自覚は、「私は正しいのに」という主張ではなく、「私に問題があるから」という内省に強く結び付く、そういうケースは普遍的に存在する。彼女は孤独を自分のせいだと思っていた。そのせいで、自分の能力を信じてはいたけれど、無力感に支配されていたように見受けられる。その人がいないと、私に仕事なんて来ない。工場の香害といった困難な仕事が来ると、解決策がその場ですぐ浮かばず断念する。
そんな彼女が、その人に頼らないと言った。嬉しくならないわけがない。私が。
自分を信じて、と主人公に言い続けるのは調香師さんの方なんだけど、そんな調香師さんが自分を信じられるようになったのは、主人公との交流があったからこそなんだね。

主人公も、理由があって断れないからお客さんと関わるしかなかったとはいえ、結構早い段階で相手に関心を寄せている。
会話ではどうも打ち解けられない、では仕事に関心を向けてみるか。何やら色々な香りを気にしているな。そして、洞窟内でその面白さの片鱗を感じ取った。
このような「相手への関心」を持たない人だったら、自分の中にあった未知の可能性に繋がる道は現れなかったろうと思う。
相手に寄り添うことで、彼自身が救われた。とても綺麗な物語だ。

作中、思い出の香りを言語化する場面があるけれど、私にとっての思い出の香りって何だろうと考えたりした。
ある国を去る時にハグした少女の髪の香りだと気付いた。どこかで再会できる香りなんだろうか。
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