ハンセン病に関しては以前少しだけ調べた事があったが、この作品で新たに知った事実があり、残酷で衝撃だった。それは断種や堕胎についてである。
ハンセン病の元患者の人々を9年間撮影したドキュメンタリー映画。こう聞くと、辛くて苦しくなるような作品と思われるかもしれないが、見終えた後はなんだか元気をもらえた。
それはこの映画が、ハンセン病を患った患者さん達がどのような辛い経験してきたのかを伝えるだけでなく、きみ江さんという人を通して生きる意味や、希望をもって生きる事を強く感じさせる作品となっているから。
舞台は国立療養所多磨全生園。映画『あん』の撮影でも使われた場所で、過去8141人の患者さん達が生活していたそうで、監督はそこで暮らす人々を9年間撮影し続けた。
きみ江さんと定さん夫婦はそこで出会い恋をし、結婚。子供が産めなかった2人は養子を迎え、その子は立派に成長。今では結婚し子供をもうけている。劇中ではきみ江さん夫婦が子供達に囲まれている姿が幸せそうに映し出されている。
しかし、この何気ない姿はハンセン病患者にとっては異常な光景だという。それは、ハンセン病患者さん達がどのような仕打ちを受けてきたかを知ると理解できる。
現在ではハンセン病は治る病気と知られているが、昔は"治らない"だけでなく"うつる"病気とされ、そしてその風貌から恐れられ虐げられていた。劇中でも語られている"むらいけん運動"というものもあり、彼らはそれぞれの地域の施設に隔離生活を余儀なくされていた。
そしてその扱いもひどいもので、同じ人間として扱われてはいなかったという。それを象徴するものとして断種と堕胎というものがある。子孫を残させないために取られた残酷な政策。人間としての尊厳を奪う行為が当たり前のように行われていたのだ。
そんな辛い経験を経ても、人間の尊厳を保ち平等に生きたいと願うきみ江さんは養子を迎え育てる事を決意する。だから、普通の人にとっては当たり前の光景が、彼ら彼女らにとっては異常であり奇跡のようなものなのだ。
印象的なシーンがいくつもあるが、なかでも障害を持つ女の子に鋭い質問をされる所。
「もし、自分の病気が遺伝するとわかっていても子供を産みたいか」。この質問は同じように障害を持っている人にしかできない質問だと思う。
きみ江さんははっきりと"産みたい"と答える。
この質問の前にきみ江さんが、人間の使命について語るシーンがある。ハンセン病になり辛い経験をしてきたけれど、きみ江さんと出会った事で、優しさが芽生えた男の子の話。誰もが誰かの役に立っている。生きている意味のない人なんていないという事が伝わってくるエピソードである。
例え障害のある体で生まれたとしても卑下する必要はない。人は誰でも何かしら誰かに影響を与える意味のある大事な存在だという事。そういう考えをもっているからこそ子供を"産みたい"と強く答えたのだ。
障害を持ち、様々な辛い経験を経ているのに、ここまで前向きにパワフルに生きているのはすごいし、自分が日頃悩んでいることなんてすごくちっぽけな事だと思えてくる。好奇心旺盛で、人を信じ・愛す姿。それは自分を反映しているのだと思う。自分の事を愛せないと、人は他者を愛することはできない。本当に元気をもらえる人だ。
最後の桜を愛でる姿は、私は人生を楽しんでいるよ!と強く訴える力強さを感じた。この歴史を忘れずに、下を向くのではなく上を向いて生きていこうと思える作品だった。