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ディック・ジョンソンの死のAPlaceInTheSunのレビュー・感想・評価

ディック・ジョンソンの死(2020年製作の映画)
4.1

精神科医の父と、カメラマンの娘。
これまで大きな心で私達家族を愛し養ってくれたてくれた父だけど、最近、痴呆症のせいで言動が少しおかしくなってきた。
考えた陶、娘が父自身の死を父自身が演じる映像を撮ろう!というアイデアで作成されたドキュメンタリーらしい。

普通の親子のようでいて、どこか普通じゃない空気感がある。
この家族はアドベンチスト教派だと言うことが作中で示される。
アドベンチストという名は病院名で目にする程度でキリスト教の一宗派なのかなぁぐらいに思っていたけど、少し調べたらキリスト教の中でもかなり変わった死生観・教義・戒律を持つらしく、一部では異端扱いされてるとか。
(監督でありカメラマンである娘さんもアドベンチスト教の厳しい戒律(お酒、ダンス、映画は禁止)を守っていたらしい。)

この独特の死生観が作品に色濃く影響しているように思う。

見進めるうちに思った。この作品は愛する父の人生丸ごとを祝福するような、映画による生前葬なんだ、と。
父の大学生時代に好きだった女性の元を訪れるパートなんかも有り。

ドキュメントの途中に時折、ファンタジックな映像が挟まれる。その中で最も印象的なのが《天国》というパート。
白い背景で聖なるものを感じさせる意匠。ブルース・リーや映画スターのお面わ被った人が場を彩る。そこではなき妻(のお面の人)とダンスする父(の面の人)が。
(え?映画やダンスは禁止では?と突っ込む笑)キリストのような人が苦笑いする場面も。

ラスト、本当に生前葬が行われるとは!?
作中では、身体が弱り、認知症が進行するなど父の衰えた面が強調されていたが、
生前葬に集まった、精神科で父にかかっていた元患者が、人生の困難な状況でいかに救われたかを訥々と語る。
素晴らしい生前葬だった。
そこには棺桶に収まる父の(死んだ演技をする)姿の映像として重ねられる。穏やかな表情をしている。

死と生は対局にあるのではなく、シームレスに、すぐ隣にあるもの(なんか養老孟司さんの本の主題みたいだ)。
穏やかな良き死を迎えるために、善き生を生きよう。
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