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ドライブ・マイ・カーのhoshのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.7
すべてに没入出来たわけではないけど、すごく気に入った。3時間があっという間。
初・濱口竜介、原作は未読。

序盤はどこか浮いたセリフ回しと度を越した理屈っぽさに面食らったけれど、食卓、公園の立ち稽古のシーンから終盤にかけて人物の言葉や肉体に温度が伴い、立ち上がっていく感覚があり、そこからは夢中で見ていた。リアルでは無いのに凄まじくリアルに見える、知っている役者なのに知っているように見えない。完全に役と溶け合った存在に見えるという不思議な体験だったな。今後、演技を見る目が変わってしまいそう。随所に挟まれる刺激的な美しさのカットも相まってどこか夢を見ているような感覚。

とても心地よい声が集まった映画だと思う。言葉の内容より発話される音の響きの変化がドラマになってる気がした。みさきを牽制するような無骨な声をしていた家福が後半はとても穏やかな声を発している…とか。セリフが人間的になっていく過程がこの作品の登場人物の関係性の変化、舞台劇の進行、観客の作品への信頼感とシンクロしていて圧倒されてしまったな…特に西島秀俊の声の色気と演技に本当に引き込まれた。佇まいのフラットさから無限に発声が湧いてくるんだよね…

あとやっぱり喪失と対話をモチーフにしている所で、『おかえりモネ』を思い出したな。決して理解することができない他人や痛みをどう想像して折り合いをつけるか。「私にはあなたの痛みは分からない。でも理解したいとは思っています。」
この年は他にも『シン・エヴァンゲリオン』や『大豆田とわ子と三人の元夫』といった作品にも似た空気を感じていた。内省から世界へ向き合うものが多くて、不思議な縁だなと。見ることで観客自身も逡巡し、僅かな救済を得る経験ができる。そして、ちゃんと傷つく事の重要性を学ぶ。

本作の「君は悪くない」というセリフ、残されたものがどう後悔と向き合うか。という主題、2人が抱擁する場面は『おかえりモネ』とも共通していると思うのだけど、前者はそれでも生きてゆくしかないのです。というある種の諦念とうら寂しい優しさを感じた一方、後者は死者の声という掟破りを使いつつも「生きていくためにも、時には忘れてね」というもう少し包みこむようなニュアンスだったのは興味深かった。朝ドラと映画という媒体の差なのか、村上春樹&濱口竜介と安達奈緒子の作家性や性別の差なのか。どちらも非常に丁寧に言葉を紡ぐ作品なので気になった。

見終えた後に米津玄師とかJames Blake とかFrank Ocean とかThe 1975 とか内省を昇華してる男性アーティストの作品を聴きたくなった。ちゃんと傷ついてメランコリックになる。男って幻想しか見れないのかもなあ。鎧を脱ぐ。

最後にすごくどうでもいい話だけど、コメリが出てきたのが熱かった。アカデミー賞作品賞候補の映画にコメリよ…
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