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岬のマヨイガのYouKeyのレビュー・感想・評価

岬のマヨイガ(2021年製作の映画)
4.0
 いくら酷暑と豪雨の極端な天候続きでも、日暮れ後にはほんの少し秋の気配を感じる時期に公開される新たな”Forget me not”の物語。ぴあ様主催スニーク・プレビュー観賞。原作未読につきトンチンカンな部分はご容赦。「映画大好きポンポさん」観賞時に予告編を観ていなかったらチラシを読まずに『またアニメか』で済ませていただろう。

 岩手県を舞台、柳田國男氏編纂の「遠野物語」を背景に、2011年3月11日以後を生きる人々の葛藤を描く作品。観ている最中は淡い水彩画のようなタッチに綺麗だなあ、これなら観られるとか、食事がオシャレだなあとか、あれ?これってもしかして「遠野物語」のやつ?と考えたりしていたが、観終えて帰宅後にあれこれ浮かんできた。

 取材陣が災害に襲われた土地へ入るとよく『被災者は悲壮な表情を』と要求するが、自分も同じような押しつけを無意識のうちにしていないかと問う。例えばその土地の言語や伝統芸能を護ってほしいなんて要求するのはよそものの身勝手。もしかしたら何もかも忘れて新しい土地で生活したい人がいるかもしれないし、引っ越さずに(引っ越せずに)少しずつでも同じ土地で日々を築いていこうという人だっている。
 
 この作品の最も良い点は『被災者』の正直な感情を伝えている部分だ。『そうだよなあ、そう思って当然だよなあ』と頷かされた。『被災者』の人々が皆善良だったら掠奪だとか避難所でのイヤな体験(やボランティアの横暴ぶり)なんか聞かないもの。

 同時に観光客というお金を落とすよそものとしては、伝統芸能やその土地にまつわる昔咄や伝説を知りたいだろうけど、地元の人々にとっては『またか』とウンザリさせられるだけかもしれない。

 でも、『電車が10輌編成で5分おきに来る』都市から出たためしがない身だと背負わされるものがなくて気楽な分、何も引き継いでいくものがない。それはそれでアイデンティティが希薄になりそうなときもある。かと言って最近の他県ナンバーの自動車に対する出て行け行為やウイルス感染者に対する態度を知って『”田舎”はいいねえ』ともますます思わなくなっている。

 だから余計に字面でしか知らない「遠野物語」の要素が効いてくる。岩手県の学校で必読書に定められているか知らないけど、なんとなく一部でも目を通したらもっとこの作品の深みが増すのではないだろうか。「遠野物語」の世界にいる存在が『私たちを忘れないで』と呼びかけているように感じられてならなかった。

 アニメ映画上映前だけでなく実写映画上映前にも予告編をかけてほしい。それと「この世界の片隅に」のように字幕版を希望。
 
 大竹しのぶが誰の声だったのかわからない名演技!
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