せーじ

岬のマヨイガのせーじのレビュー・感想・評価

岬のマヨイガ(2021年製作の映画)
3.2
332本目。

■むかしばなし「マヨイガ(迷い家)」
むかしむかし、あるところに働き者の嫁っこがおったそうな。ある時山に野草を獲りに行った嫁っこは森を歩いていたところ、誰も住んでいないのに立派なお屋敷に辿り着いたそうな。不思議に思って、何もせずに立ち去ったところ、しばらくして川で洗濯をしていたら、綺麗なお椀が流れてきたそうな。あんまり綺麗だったから拾って米を測る器にしようと使ったところ、不思議なことにどんなに米を測っても減らなくなってしまったそうな。そんな幸運がもたらされた嫁っこの家は貧しさから抜け出してみるみる豊かになり、長者の家になって幸せに暮らしましたとさ。どんとはれ。

※※

こんな伝承が、岩手県の遠野という街に残っているそうです。本作は迷い込んだ人を歓待して癒す不思議な家「マヨイガ」の伝説をもとにつくられたオリジナルアニメーションです。遠野と言えば、この伝承も含めて語られている「遠野物語」をはじめとした、様々な不思議な話と妖怪たちの伝説が有名ですよね。もちろんこの作品でも、それらは大きく取り上げられていて、それならばとてもファンタジックなワクワクする話になるのではないかと思うかもしれませんが…残念ながら個人的には良く感じられなかったです。ここからはその理由をつらつらと書いていこうと思います。

■作画のチープさと劇伴のメリハリの無さ
まず目についたのが、これらの要素でした。自然描写など、ぱっと見丁寧な作画であるようにも見える部分もあるのですが、タイトルバックでマヨイガを俯瞰で見せようとしたときに、建物を囲む生け垣がのっぺりとCGしていて、ずっこけてしまいました。なんて言えばいいのでしょうかね。生け垣が描き込まれているのではなく、生け垣があるべき場所に、生け垣専用のテクスチャが貼られているような感じだったのですよね。
ほかにも、建物内の作画がまるで広角レンズで撮られたような不自然な広さだったり、キャラクターの動きがどこかぎこちなく、生活感がない感じだったりと、ちょっと観ていてキツかったです。これは『マイマイ新子と千年の魔法』や『この世界の片隅に』などを観てしまっているからだと思うのですけど、明らかにアニメーションとして拙く見えてしまう部分だったのではないかなと思います。
加えて、劇伴にメリハリが無いのがとても気になりました。意図はわかるのです。自然にさりげない劇伴でまとめようとしたというのは。でも、どの場面でも似たような劇伴だったのですよね。流石にそれはちょっと…と思いました。
全体的なクオリティバランスが、整えられていないように感じます。

■悪くはないけど…というストーリー
ストーリーも「わかるけどさ…」という内容でした。伝承の語り部である「おばあちゃん」をキーパーソンに託すことで、妖怪(ふしぎっとという名前になってますが)と傷ついているヒロインたちとを繋ぎ、彼女たちを癒すことで自立と成長を促していき、そうしていくことで震災で傷ついた地域の復興につなげていく…というプロット自体は悪くないと思います。日本に昔から土着している伝承だったり言い伝えだったりを、現代の世に役立てるということですからね。ただ、それを実現させるために強引な展開が後半になればなるほど重なってしまっていて、決着のさせ方もきちんと処理していないのはすごく気になりました。やはりおばあちゃん一人で「震災などへの悲しみ」とバトルをさせるというのは、なんぼなんでも無理があるというものでしょう。(せめてもう一人くらい、"こちら側の闘えるキャラクター"が欲しかったです)。そして、ヒロインたちはその後どうやって自立をし、生計を立てていくのかということが、都合よくふんわりと処理されて終わり…となるのも、なんだかなぁと思ってしまいます。自立を描くなら、そこはもっと現実感を持った形で具体的にきちんと描くべきだったのではないでしょうか。

■ディレクション不足な役者陣の演技
役者陣の演技そのものは悪くはなかったと思います。ヒロインを演じた芦田愛菜さんは、本人のパブリックイメージとは結構離れている女の子の役柄を、きちんと演じていましたから。でも、一番肝心な彼女たちを助けるおばあちゃんを演じる大竹しのぶさんの演技が若々しすぎて、個人的には不満でした。それと思うのが、「喋れない」という状態は「無音」だということではないと思うのですよね。吐息だとかちょっとした息遣いだとかが、そこには必ずあるものだと思うのです。それが表現されていないというのも良くなかったですね。これらはすべて、役者さんの責任ではなくディレクションの問題なのだと思います。これらの要素をより突き詰め、ブラッシュアップする必要があったのではないかと思ってしまいました。

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ということで、個人的には食い足らなかった作品となってしまいました。
題材と大元のプロットなどは良かっただけに、それをどう表現していくのかという「アウトプット」の部分が、拙く感じてしまったのはとても残念なことだったと思います。
興味がある方は原作と読み比べてみるのもいいかもしれません。
せーじ

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