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スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたちのfujisanのレビュー・感想・評価

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普段あまり取り上げられることがない女性スタントにフォーカスをあてたドキュメンタリー映画。

最近では『スタントダブル』という呼び方の方が一般的になるなか、あえて”ウーマン”としているのは、女性スタントの厳しい立場を示す意味があったのではないかと思います。

ドキュメンタリーは、1970年代から女性スタントとして活躍したジーニー・エッパー(初代ワンダーウーマンなど)とスタントウーマン協会の設立に奔走したジュリー・アン・ジョンソンという二人のレジェンドを語り部として、若いスタントウーマン達に語りかける形で進みます。

女性スタントの歴史は古いものの、派手なアクション映画が流行してくる中で男性に取って代わられ、女性役のスタントであってもカツラをした男性が演じる時代が続いていたそう。

『女性の格闘=髪を掴んで引きずりまわすような古い演出』から脱するために、男性ばりの本格的な格闘にもチャレンジし、少しずつ実力を示すことで女性スタントの地位を確立。スタント役を男性に取られないために、ケガをしても隠していたエピソードが泣かせます。

本作を、現役女優側でナビゲートしていたのはミシェル・ロドリゲス。気さくで、スタント役を心からリスペクトしている姿も印象的でした。



レジェンドたちの努力により一定の地位を確立した女性スタントですが、そもそも女性スタントは男性スタントよりも過酷な商売。

男性スタントは筋肉を付け、服の下もプロテクターで固める事ができますが、映画で女優が演じる役はそもそも薄着の衣装にハイヒールなどを履いていることも多く、女性スタントは動きにくい衣装の上にプロテクターも付けず、体型を合わせるために筋肉をつけることも難しい。

映画「スピード」で、最後にバスの下からキアヌと脱出するサンドラ・ブロックのスタントを担当した方は、薄着な上にスカートの裏をテープで足に止めて演技をしていたそうで、過酷なシーンをほぼ生身で演じる恐ろしさが半端ないです。

本作ではそんな「スピード」でのエピソードの他、「マトリックス」の高速道路をバイクで逆走するシーンや、「ワイルド・スピード」、「トゥルー・ライズ」や「インディ・ジョーンズ」など、色々な映画のシーンが登場するので、映画好きにも興味深い内容となっていました。



もともとスタント業そのものが俳優の一段下に見られがちで、そこにさらに女性ということで、高度なスキルが必要にも関わらず報われてこなかったスタントウーマン達。

ただ、少しずつではありますが、スタント業出身の女性アクション監督も生まれてきているようです。

男性ではありますが、「ワイルド・スピード」を撮ったデヴィッド・リーチ、「ジョン・ウィック」シリーズのチャドスタエルスキ監督も、スタントマン出身監督。女性スタント出身の映画監督が増えてくれば、今まで表現されてこなかった新たな映画が生まれそうで、楽しみ。

日本でも、「ベイビーわるきゅーれ」の井澤沙織さんが有名になったことで、スタントダブルという職業にも注目されるようになってきており、今後エンドロールにも注目したくなるドキュメンタリーでした。




2023年 Mark!した映画:336本
うち、4以上を付けたのは37本 → プロフィールに書きました
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