MasaichiYaguchi

海辺の金魚のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

海辺の金魚(2021年製作の映画)
4.0
女優、文筆家として活動する小川紗良さんの長編初監督作品は、鹿児島県阿久根市を舞台に、そこにある児童養護施設で暮らす少女たちの日常を通し、彼女らが抱く葛藤や悩みを織り交ぜながら心の成長をエモーショナルに描いていく。
鹿児島県には観光旅行で、桜島、仙巌園、霧島神宮などを訪れたが、本作の主舞台である阿久根市には行ったことはないものの、海水浴場やそこから見える阿久根大島、牛乃浜景勝地、番所丘公園、黒乃瀬戸大橋などの観光スポットがあるようで、スクリーンからもその魅力が充分伝わってくる。
児童養護施設で育ったヒロインの花は18歳になり、そこでの最後の夏を迎えている。
そんな折、新たに8歳の少女・晴海が施設に入所する。
来たばかりで自分の殻に閉じ籠り、打ち解けない晴海に嘗ての自分を重ねた花は少女と積極的に接するようにしていく。
その交流の中で晴海は自らのことや過去と向き合うことで、彼女は今まで抱いたことのなかった感情を覚えていく。
本作の準主役とも言える晴海役の花田琉愛さんをはじめとした収容児童は子役ではなく、阿久根市で行ったオーディションで選ばれた演技経験の無い普通の子どもたち。
だからなのか子どもたちが作り出すシーンは、何かドキュメンタリーを思わせるようなところがあったりして自然体だ。
花と晴海の年の離れた姉妹のような2人は、自らを取り巻く社会の楔を振り払うかのようにもがく。
終盤に展開される彼女らの“一夏の冒険”は何処かセンチメンタルで心の襞に触れてくる。
淡水魚である金魚は海では生きれない、だからタイトルに込められた意味はラスト近くに登場するシークエンスで分かってくる。
花が自らを重ねてした“行為”には彼女の決意なようなものが感じられて、光溢れるラストシーンと共に心に残ります。