あもすけ

狂猿のあもすけのネタバレレビュー・内容・結末

狂猿(2021年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

葛西純というプロレスラーの凄味を存分に見せつけてくれる。プロレスというジャンルのなかでも特殊なデスマッチという領域の第一線で戦い続けるというのはどういうことか。怪我で欠場している期間にコロナも重なって、モチベーションを失ったと吐露する場面は当人の辛さももちろんファンとしてもかなり辛いというか悲しくなってしまう。だけどそれは葛西純のデスマッチへの拘りの証だった。デスマッチが好きだからこそ今の自分はそこに要らないんじゃないか、という考えが過ぎるくらいだからこそ、誰もが認めるデスマッチのカリスマとなり、現在も唯一無二で在り続けているんだと思う。そしてファンである私は観ながら「居なくてもいいわけがないぞ!」とスクリーンに向かって念じていたし、近所の公園でトレーニングをする姿に心躍らせたりした。そして何より試合場面が凄すぎる。過去の中継映像ももちろん凄まじい。その上で、このドキュメンタリーのカメラでリングサイドから撮られた試合映像が圧巻だった。感激。映画のなかでもクライマックスの杉浦とのタイトルマッチは、このままノーカットで見せてくれるのでは、と思うくらいに試合への敬意溢れる映像だった。声を出せずに固唾を飲んで観戦する観客の緊張と興奮、そしてリング上のふたりの呼吸から、互いの肉体を削り合う壮絶な攻防、それらが鮮明に、生々しく焼き付けられている。やがて聴覚から視覚にまでアドレナリンにやられたみたいに、砕ける蛍光灯と傷つく肉体、そして戦い続けるふたりの表情に惹き込まれていった。最高。これが日常であることの意味がわからない。これで全てが終わったのだといわれても納得するくらいの全身全霊を賭す説得力に圧倒される。だけどこれでは終わらない。試合の場面から、まさにこれを日常として生きている葛西純の、最高に人間味溢れる愛らしい生活の場面に戻り、冗談をまじえながらも真剣な先へのモチベーションをなんてことないような口調で語るのをみた時、これがデスマッチをやり続けるということなのだと思い知った。試合が物凄いことはずっと知っているし、リングを降りたその人柄だっていろんなところで見たり読んだり出来ていて、でもそれがこうして連続している毎日というのを、想像はしていてもドキュメンタリーとして触れて感じることはかなり大きなものだった。エンドロールで試合後の葛西純が呼びかける言葉を聞きながら、映画館の椅子の上、自分の内側にぽつんと居る核みたいな心で泣き笑いの顔をして受け止めていた。超熱かった。
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