たく

カナルタ 螺旋状の夢のたくのレビュー・感想・評価

カナルタ 螺旋状の夢(2020年製作の映画)
3.7
南米エクアドルに住むシュアール族の伝統的な生活を太田光海監督が1年間密着取材したドキュメンタリー。西洋文明からほど遠い原始的な生活の中で、人間に本来備わってる動物としてのセンサーを活かした独自の文化に彼らの誇りが感じられた。薬草によって得られる「ヴィジョン」なる幻覚効果が彼らの人格形成の重要な要素を占めてて、こないだ観た「素晴らしき、きのこの世界」でキノコの幻覚作用が原始の人類の脳を進化させたという説を思い出した。

冒頭で、煮込んだ芋を人の唾液で発酵させて酒にするチチャ作りの工程がけっこう長めに映されて、ちょっと生理的に無理ってなった。「君の名は。」に出てきた「口噛み酒」が似たような製法で、同作ではアニメということもあってソフト描写にあまり違和感なかったけど、こちらはカメラが思い切り生々しく捉えてたのでキツかった。更にこのあと村の男たちがそのチチャを飲み交わす場面が出てきて、思わずリバースしそうになって耐えるのに難儀した。同じ意味で「せかいのおきく」の汚穢屋の仕事シーンもキツかったね。でもこのチチャがマチェーテ1本でなんでもこなす男たちの原動力になってて、労働の後の一杯が格別だということは伝わってきた。

家の屋根作りのための葉を収穫する男たちが「今の若い奴らは働かないからダメだ」みたいな愚痴を言ってて、文化こそ違えど、どこの国も世代ギャップは同じなんだなーと思った。本作の中心的存在となるセバスティアンが独自に薬草の研究を進めてて、妻のパストゥーラと共にマイキュアの幻覚作用がもたらす「ヴィジョン」によって世界の本質や自分が進むべき道を見出すというのが、捉えようによってはただの妄信のようにも思える。でも民族の伝統というのは多かれ少なかれ根拠のない確信によって支えられてるわけで、シュアール族の生活がある種閉鎖的だからこそ強い確信に支えられてることが伝わってくる。将来を担う若者たちがこの文化をどう捉えてるんだろうと思ったんだけど、その危惧はたぶんセバスティアンも感じてて、だからこそラストで太田監督にマイキュアをふるまい、この伝統文化の継承を託したんだろうね。
たく

たく