しべお

ホロコーストの罪人のしべおのレビュー・感想・評価

ホロコーストの罪人(2020年製作の映画)
4.3
北欧の国々に惹かれる日本人は多い。ノルウェーもそのひとつ。グリーグに始まりa-haやオーロラといった多様な音楽、浅煎りコーヒーにノルウェーサーモン、ビートルズの歌にも出てくるノーウェジアン・デザインの家具、美しい自然、先進的な環境への取り組みといった国の在り方に、自分は常々魅せられてしまう。知人でノルウェー留学経験がある若い女の子も、かの地での楽しかった思い出を目を輝かせながらよく語ってくれたものだ。

第2次大戦においては、国王が先頭に立ってナチスドイツの侵攻に果敢に抗おうとした歴史も知っていたが、そんなところもかの国に好感を持つ一因かも知れない。

そんなノルウェーが当時の自国の加害の歴史に正面から向き合った本作に衝撃を受けた。占領後の傀儡政権だったとはいえ、ナチスドイツの政策にかこつけて、1600人弱しかいなかったユダヤ人を一網打尽にして国から追い出そうと動いた。そこには当時のヨーロッパのみならず、アメリカでさえ根深かった反ユダヤ主義、ユダヤ人に対する差別感情、そして無関心が現としてあったのだと改めて実感した。これも素晴らしかったスロバキア映画の「アウシュヴィッツ・レポート」でもそうだった。

それは劇中でいくつか出てくる、何人かの市井の人達のさらっとした仕草やセリフが匂わせる。占領後、街中で主人公兄弟に挨拶されると急に冷たくあしらったり、「ずっと追い出したかった」と平然と口にする人達。みんなごく普通の「善良なる市民」だ。そもそもユダヤ系ノルウェー人は他国に比べて数が少なかったこともあり、無関心と同調圧力も相まって、異義の声などはすっかり覆い隠されていたに違いない。一方、秘密国家警察や収容所の所長の制服や紋章はすでにまるでナチのそれだった。侵攻され、占領されれば、いつの間にか染まるのだ。

ノルウェーはつい最近になって初めて政府として謝罪したという。すでに当時の生存者はいない。若い世代のノルウェー人達が、過去と真摯に向き合って作り上げたこの作品は大きな価値があると思う。ノルウェー国内の評価も好評だったそうだ。誇張せず、事実を丹念に再現した作りはあの当時の狂気を強烈に伝えるし、私達日本人にも人種差別の恐ろしさ、忌々しさ、「空気に流される」危うさを痛感させる。

もし日本が過去の加害について真正面から描く映画を作ろうとしたら、今ならネトウヨや歴史修正論者がたくさん湧いてきて、一部の政治家が上映中止させようと圧力かけたりするんだろうな。

終盤、無音になる数分間の描写が印象的で忘れられない。ホロコーストを描いた映画はたくさんあるが、個人的にはベスト5に入る。2時間以上でも一瞬たりとも中弛みせず、最後まで引き込まれた。ちなみに主人公家族は実在の家族。

最後に、素晴らしかった俳優陣。主人公チャールズ役のヤーコブ・オフテブロ、収容所の所長役のニコライ・クレーベ・ブロックが特に印象的。さらに主人公と結婚するラグンヒル役のクリスティン・クヤトゥ・ソープは個人的に魅力的すぎて瞬殺された。
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