larabee

明け方の若者たちのlarabeeのレビュー・感想・評価

明け方の若者たち(2021年製作の映画)
4.5
【本当の青春はここから始まる】

実際、自分が就職した時とは時代が異なるので、同じ新卒就職であっても全く環境は違う。でもこのモヤモヤした気持ちは凄く共感できる。

主人公は大手印刷会社に就職が決まり、周りから勝ち組と見られているが、周りと同じ様にはしゃぎたい訳ではない。

ある時「勝ち組飲み会」でふとした事から少し陰のある女性と親しくなり、やがて付き合うようになる。

一方、希望を持って就職した会社では、意図しなかった総務部に配属され雑用をこなす毎日。

学生でもなく、社会のレールに乗ってしまった事で楽しくもない日常を過ごす中、彼女と会う事だけが唯一の救いとなっていた。それがいつか終わるかも知れないという不安を抱えながら。

青春映画って大抵が学生時代を描いているが、本当に揺れ動くのは学生から社会人になるその移行期、まさにこの映画で描かれる時期、それが「明け方」。

学生なんて社会の事を何もわかっていないし、理想ばっかり追いかけてるけど人生は思う様にいかない事だらけで社会に出てから挫折も経験する。

学生の時の経験なんてホントちっぽけなモノ(だから貴重でもあるのだが)。そして本作の主人公もそのモラトリアムから脱するタイミングで大きな挫折を経験する。

彼女は登場の時からどこかミステリアスなのだが、何事もなく二人は順調に交際を重ねていく。と思って観てたら観客は後半我々はとんでもない事を知ることになる。

二人の交際が軸になっているが、これはあくまでも物語の要素であってメインではない。本題はモラトリアムから旅立つまさに「明け方若者たち」の何とも行き場のないモヤモヤした気持ち、もう戻る事も出来ないし思う様に進まない、そんな姿を見事に描いていた(中途半端なR指定だけは残念だったが)。

そして挫折だけで終わらず、世間と折り合いをつけて、ちょっとだけ希望が残るラストも良かった。

オッサンとしてはそんな挫折も希望も甘酸っぱくて羨ましいのだが。あゝ明け方。
larabee

larabee