太田とタクシー

ボーはおそれているの太田とタクシーのネタバレレビュー・内容・結末

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

プロットや比喩を掴み切れないが、狂人まみれの街や不条理な災いの連続に次ぐ連続で、感じたことの無いカタルシスを覚えた。おどろおどろしい狂気を浴びせられ続けていると、観ている私は完全に日常から距離が生まれ、否応なく作中の世界に巻き込まれボーの痛みや心労を追体験した感覚に陥った。

特に印象に残るのが、ボーがひたすら部屋の中と外を行き来するさまだ。ボーの心身を安らげる空間であるはずの部屋に入っても惨事に遭い、その部屋の意味が解体される。いまここの三次元においても逃げ場が無いことに加え、テレビに映し出された現実は早送りできてしまい、時間を軸にしても逃避できようがない絶望感だけが残っている。ラストシーンのひとつ手前、海へボートを漕ぎだした(現実から逃げ出した)かに思えるが、屋内でも屋外でもある洞窟を通過すると、またも閉鎖され人の目にも囲まれた屋内へと戻り、断罪されてしまう。しまいにはトラウマとして散々フラッシュバックしていた風呂の水中のように、水に沈みエンドロールを迎える。屋内と屋外を行き来する中で、ボーの逃げ場などどこにもない。

ラストシーンは『トゥルーマン・ショー』のオマージュを感じるが、『トゥルーマン・ショー』では陸地から海へ繰り出し、海の外側にある現実の世界へと戻っていく。一方『ボーはおそれている』では、海へ漕ぎ出すまでは同じものの、海の外側(逃げ場)はないことが分かり、加えて明確に監視されていたことを強烈な形でボーに叩きつける。この爽快感の無さ、徹底された閉塞感にはかなり心を掴まれた。マーク・フィッシャーの「資本主義リアリズム」っぽいと言ってしまえばそんな気もしてしまうが、何にでも言えて安直だと思うので連想した、程度に留めておく。

ギャグ的に消費する雰囲気もあるが、そうはならず強烈な映画体験になった。この狂気的な作品を全国の映画館で大規模に上映させる胆力も凄まじいと思う。転覆した船を背に浮かんだA24のロゴはどこか誇らしげなように写った。
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