francois708

ラスト・パラディーゾのfrancois708のレビュー・感想・評価

ラスト・パラディーゾ(2021年製作の映画)
5.0
チッチョの葬式の場面でははからずも泣いてしまった。
L'ultimo Paradiso (The Last Paradise)というタイトルは有名な映画「ニューシネマパラダイス」Nuovo Cinema Paradiso を連想する。
どちらの映画も、田舎の村の広場、人々の暮らしと喜怒哀楽が行き交い交差する広場が重要な役割を果たす。
教会の鐘が生活に句読点を打ち、牛や馬がまだ活躍していた、第二次世界大戦後間もない時代の設定も似ている。
ニューシネマパラダイスのアルフレードはトトに、この村を出ていけ、それが成功への鍵だと諭すが、この映画のふたりの兄弟のうち兄は村を出ていき、弟は村にとどまる。
観光で何日か滞在するならこんな村は楽園に思えるが、そこに住んで暮らすのはある意味で地獄かもしれない。
昔ながらの家父長制の権化のような村の実力者は、気に入った村の娘を無理やり犯して平然としている。それなのに、自分の娘に手を出す男のことは断じて許さない。そんな実力者に意見する人は誰もいない。
村のきまりやしがらみに縛られて、労働者の権利も保障されない、窒息しそうな世界、そこから脱出して都会で働く兄。とどまって村の改革を唱えて実力者にたてつく弟。
この兄弟を一人の俳優が演じ分けている。激情的で反抗的な弟と、理性的で冷静な兄。村を出るべきだったのか、とどまるべきだったのか。本当の楽園はどちらなのか。
日本の農村の過疎化も、出ていく人が多くなったからだけれど、本当はどちらが良かったのだろう。
ラストシーンで兄がいつの間にか弟になりかわっていて、ビアンカが赤いドレスをまとっているところ、じんときた。
イタリア語はふつうにしゃべってるのに歌ってるように聞こえて好きだ。
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