オホホホホ

遠地/本当に遠い所のオホホホホのネタバレレビュー・内容・結末

遠地/本当に遠い所(2020年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

とても静かで広々とした田園が舞台なのに、始終息苦しい映画だった。

人を避け農園で働く子連れの男。

彼の元に都会からやって来た恋人で詩人の男。

さらに子供の本当の母親である妹。

外から来た2人の存在から少しずつ軋み出す長閑な日常。そりゃそうだ。韓国の田舎だもの。

作中で詩人が朗読する自作の詩がとても印象的。

崩れ行く遠いところ。

画一的な韓国の価値観から外れた人間が、穏やかに暮らせる、あるのかないのかわからない遠いところ。

切ない詩だった。

私はある詩が頭に浮かんだ。

この街じゃない、どこか遠くへ行きたいと言い続けながら動けない人たち。動いたところで駄目なものは駄目なんだ。駄目になってしまったのは嫌気がさしてる今のその街じゃない、君の人生そのものなんだ。君の人生は全世界で廃墟になったんだ、という詩。

それは主人公の男だけじゃない。農場の主人。娘。ハルモニ。妹。一見自由でしなやかに見える詩人ですら、生きにくさを抱えて何かに縛られているようで、いつでもここを捨ててどこかに逃げ出したい、そんなままならない人生の街に暮らす人々。

それでも人は生きていかなくてはいけないわけで。

ラストは、旅立ち。

恋人は帰ってこないかもしれない。どこにも彼が安心して暮らせる場所はないのかもしれない。妹と娘が上手くいく確証もない。湿り切った旅立ち。その時に間に合うように子羊が産気付き、みんなで出産を見守る。よろけながら泥だらけの子羊が立ち上がり母羊の乳をせがむところで呆気なく映画は終わった。

なるほどなるほど。


それでも私は彼らと一緒に羊の出産を見守り、なにかしらの希望のかけらを、幸せのかけらを見出したいと思うのだ。そうやって生きていこうと思う。

そんな映画。
オホホホホ

オホホホホ