素晴らしいです。こんな素晴らしい映画を水木しげる生誕100周年の節目に製作、公開してくれてありがとう東映。
久しぶりに鑑賞後しばらく座席から立てなくなるくらい感動しました。
正直鑑賞前は「ゲゲゲの鬼太郎だしある程度は子ども向けなんだろうな」と思っていたのですが、これは明らかに子ども向けではありません。
描写も内容もかなりグロテスクですし、難解な部分や細かい伏線が多くあります。
PG12ですが、これR指定にしなくて大丈夫なのだろうか?と思う程です。
「犬神家の一族」を思わせる雰囲気、戦後の昭和ミステリーホラーの空気を存分に味わえます。サスペンスとしてもかなり上質な作りになっています。最初から最後までゾクゾクしっぱなしでした。
ストーリー、映像、音楽、演出、声優陣、どれをとっても完璧です。
特に驚いたのが音楽です。実写のサスペンス映画に使われるような本格的で上質な音楽が雰囲気を作っていました。
作画やカメラワークもかなり凝っていて開始数分でこの映画は「ただものではない」と感じさせられます。
あえて旬の声優やタレントを起用するのではなく実力派の声優をキャスティングしていることで、より物語に没入できました。
原作者の水木しげるを「水木」というキャラクターに落とし込むのも凄く上手い。
目玉の親父ともう1人の鬼太郎の父、水木しげるを暗示させる設定で素晴らしいです
戦争の描写もすごく刺さりました。
水木しげる自身があの悲惨な南方戦線で生き抜いた当事者であるからこそ、フィクションではなくて生々しくリアルな描写になっているのでしょう。
同時期に公開している「ゴジラ-1.0」とは奇しくも時代設定が同じですが、対照的です。
ゴジラは人間賛歌なのに対し、本作は本来の「ゲゲゲの鬼太郎」と同様で社会問題や風刺、人間の負の部分を存分に描いています。
なのでゴジラ映画の方が余っ程人間に優しいんですよね。兎に角、本作はいろんな面で容赦がありません。
人間と妖怪、本来なら相容れぬもの同士のバディものサスペンスというのも安定で面白いです。水木とゲゲ郎のキャラクターとしての魅力が抜群でとても愛おしい……
どのキャラクターも細かい人物描写までされていて観ていて楽しかったです。
水木が夕餉を早食いしているシーンなどは、軍隊時代の癖が抜けていないことを表現しているのだと思いますが、そういった細かい仕草がとても凝っていました。
時代設定が昭和ということで、キャラクター達の感覚もちゃんと当時の人物の感覚に設定されているのが良かったです。
昨今コンプライアンスの問題で喫煙シーンを作らない場合も多いですし。
水木は悪い人ではありませんが、鉄道内で喘息の少女がいるのにも関わらず喫煙しますし普通にタバコをポイ捨てします。
今のご時世的には修正されてもおかしくない
描写ですが、当時の感性としてはその行為が「悪いこと」である認識もなく、当たり前のこと。このあたりをリアルに描写していたのが良かったです。
そもそも、「水木」というキャラクターを「なんだかんだ言って良い奴」みたいな在り来りな性格の設定にしなかったのも良かったです。水木の人間臭さがとても魅力的でした。
説明しすぎない会話劇もよかったです。観る人の想像に委ね、ゾゾっと恐怖させる感じが凄くすきです。
冒頭に登場した、水木と共に鉄道に同乗していた乗客たちの行末にもかなり恐怖させられました。
時代設定を存分に活かしたストーリーが秀逸
ゲゲゲの鬼太郎ファンも、ゲゲゲの鬼太郎を観たことがない人も楽しめます