Fitzcarraldo

ライダーズ・オブ・ジャスティスのFitzcarraldoのレビュー・感想・評価

4.2
デンマークのアカデミー賞である第37回ロバート賞(2021)で主演女優賞・助演男優賞・作曲賞・視覚効果賞の4冠に輝き、既にハリウッドリメイクが決定しているAnders Thomas Jensen脚本・監督作。

北欧の至宝Mads Mikkelsenが主演男優賞になぜ入ってないかと思ったら、同年に公開した"Another Round"の方で主演男優賞を受賞してた…

同年に"Another Round"と"Riders of Justice"の主演って、一体どんなスケジュールで動いているんだ?あんなヒゲを伸ばす時間なんてないだろうに…

アナス・トマス・イェンセン監督
「じつはマッツは毛が伸びるスピードが人より速いんです(笑)以前、『フレッシュ・デリ』という作品で彼にスキンヘッドになってもらったのですが、朝に髪を剃って撮影していると、ランチの頃にすでに毛が伸び始めている。おそらくテストステロンが原因なんじゃないかな。ちょうど『アナザーラウンド』を撮り終えた時に、すでに本作の脚本を読んでいたマッツと、マークス役について話し合いました。特殊部隊の軍人で、ほら穴に籠っていたような外見がいいとなって、ヒゲを伸ばしてもらったんです。撮影開始までの6週間であの長さになりました」

テストステロン…監督もお茶目なのね。
確かに6週間であの長さになるなら、人よりも早い気がする。さすが北欧の至宝。凡人との格の違いを見せつけてくれる。

本作で五度目のタッグとなる2人は互いに…

アナス・トマス・イェンセン監督
「何年にもわたる信頼関係がありますし、何より良き友人だからでしょう。われわれは一緒に仕事をするのが大好きなんです。僕が撮り始めると、マッツがいつもそこにいる感覚(笑)。だから彼を想定して脚本を書いちゃうんです」

マッツ・ミケルセン
「互いをよく知っていると心地よくなって怠けてしまうかもしれません。だからこそ、その心地よさを利用してお互いに高め合うようにしなければならない。
失敗するのは嫌ですが時には避けられないものです。でも彼らと一緒なら失敗も怖くありません。みんなで一緒に笑えるからです。バカにして笑うのではなく、笑い飛ばすことができる」

どちらともに素晴らしい関係性を築いていて羨ましさを感じる。営利目的が透けて見えてしまう邦画界との差は大きい。


【スタンド使いは、スタンド使いに引かれ合う】というジョジョの基本ルールを押さえたかのような「問題を抱えている人は集まるんだ」という台詞通りに、何かしら問題を抱えている人たちが引かれ合っていく。

この日、東京都のコロナ感染者は10,000人を超えていたが、ほぼ満席だった新宿武蔵野館。ここに集まった人たちも問題を抱えているから引かれ合ったのかしら?と勘繰りたくなる。

しかし、この満席は…隣の席の近さとか、小池百合子が密です!密です!と制するほどの密だと思うけど…これがOKならイベントも飲食店も別にもう関係ねぇよな…単に黙ってればいいのか?もうよくわからないが、本作のような作品が満席になるというのは嬉しい限り。

なんといっても登場人物のキャラ立ちが素晴らしい!マッツの安定感は言うに及ばず、その取り巻きの三匹の子豚ちゃんが抜群に冴えていた。各々の性格や考え方が被ることなく、三角綱引きの要領で三方向に互いに引っ張り合い、マッツを中心にして上手にバランスを取っていたことが何よりも際立っていた。

後半に向けて尻すぼみになってしまったのだが…それは真剣に見てはいけないらしい。

アナス・トマス・イェンセン監督
「冒頭の教会のシーンは、まるでディズニー映画みたいでしょう? クリスマスのおとぎ話は、いつもあんなふうに始まりますよね。そこから様々なジャンルが入った物語を展開させたかったので、あの冒頭シーンは"このおとぎ話みたいな始まり方を本気にしないでね。この映画では何が起こるかわからないよ"という観客へのメッセージになっているんです。おとぎ話として物語をスタートして、結末にもおとぎ話の要素を雰囲気として入れる、という意味でもありました。あのセーターは、そうした要素の一部として選んだんです。ただ、欧米人にとってクリスマスは家族が集まって一緒に過ごすものなので、セーターはそこにも効いてくるんです。それに単純に笑えるでしょう? かっこ悪くて(笑)」

おとぎ話なんだ…。そうか…そういう設定だったのか…いや、こちとら真剣に見てしまっていたので、全く笑えなかったんだけど。

顔認証解析で違う人物だったと分かってからグダグダしてしまったように感じるし、そこはもう有耶無耶でいいんじゃない?でないと彼らを微笑ましく見てられなくなってくるんだけど…ただの危ないヤツらやん…。

ラストの大殺戮も全く笑えないんだけど…

アナス・トマス・イェンセン監督
「デンマーク人のユーモア感覚は、かなりブラックなんです。ほかの文化圏の人々ならユーモラスに表現するのを躊躇するようなこともユーモアにしてしまうと思います。私自身、人生で経験した一番おかしかった笑いの場は葬式でした。ユーモアが人生の一部なんです。
この作品を戦地でPTSDを患った兵士にも見せましたが、ユーモアがある描写だったことに、すごく喜んでくれました。シリアスな問題をあまりにも真剣に見つめすぎると、話ができなくなってしまうのではないかと思っているので、難しい問題こそユーモアを持って向き合うべきじゃないでしょうか。人生にユーモアは大事だし、役立つものですから」

なるほどね…ユーモアだったんだ。作品をどういう目線で見るのかで印象は変わってしまうので、どう線引きするかが非常に難しい。ユーモアだと思えば確かに…言われてみればわかる気はするが…

というか…Riders of Justiceのリーダーの弟が殺されているわけだから、いくら殺害現場のDNAの痕跡を洗剤で消したからって、その兄が手下を引き連れて総出でマッツの家に襲いに行って返り討ちにあったんだよ?!

さすがにのんびりとクリスマスを過ごすっていうのは…エンディングとしてどうなんだろう?

家の周りに転がるあの大量の死体はどうしたの?あの無駄にデカイ納屋でバラバラにしたの?怖ぇわ…

目撃者もいない完全犯罪なの?おとぎ話だから、その辺は気にしなくていいようだ。

軍隊帰りで最強の殺人者ぶってる割には、軽々と家の周りを包囲されてるんだけど。
そこまで近づかれてるのに気づかなかったの?

ドントブリーズのアイツなら、侵入者に何もさせないと思うのだが…


アナス・トマス・イェンセン監督
「この映画は、リーアム・ニーソンが主演しているような映画を脱構築したものなんです。ヒーローが本当はヒーローじゃないとか、悪い人が悪者とは限らないとか、この映画の要素はすべて“復讐もの”のアクション映画からきていて、それをコメディにしたんです。それが最初のアイディアでした」

コメディ映画だって…真剣に見てしまった自分が馬鹿馬鹿しい。中盤までは確かに笑えてたのに…そんなに笑える展開に終わらなかったような…。

ただ、"リーアム・ニーソンが主演しているような映画を脱構築したもの"というのは、いい目の付け所をしている。


アナス・トマス・イェンセン監督
「映画学校では、最初はこう、中盤はこう、とストーリーテリングのルールを教えますが、驚きの要素が少なすぎます。Netflixを見ていても、エキサイティングなことが起こらないなと思ってしまいます。子ども向けの映画のように、すべてが正しくていいことばかりだと、驚くようなことは何も起こらない。私にとっては本を読むにしても、音楽を聴くにしても芸術作品を見るにしても、驚きの要素が大きいんです。
すべての芸術作品において、驚きというものは重要な要素だと考えています。ストーリーテリングのルールにも驚きが入っているべきです。ルール通りに映画を作れば安全でしょうけれど、私は何が起こるかわからない映画の方が好きなんです。何を見ているのか分からないくらいがいい(笑)。だから自分が好きな映画を作りました。
アルフレッド・ヒッチコックは"ベンチの上に爆弾を置いたら爆発させろ"と言います。でも現代の観客は、爆弾を見たら"爆発するんだろうな"と思いますよね。だから私たちは、ストーリーをどう作っていくか格闘しつづけなくてはならない。みんな新しい物語が好きだからです」

素晴らしい考え方。
これを踏まえて、もう一度見たくなる。

最後に盟友マッツについて語る。
アナス・トマス・イェンセン監督
「仕事について彼とはよく話しますが、マッツ自身、ノーマルなキャラクターを裏切るような役を演じるのが大好きなんです。俳優にとって、ぶっ飛んだキャラクターは演じていて楽しいものですし、彼が素晴らしい俳優である理由の一つが、どんなにクレイジーな役を演じたとしても、心理的には必然性があると表現できるところです。なぜそう感じてそう振る舞っているのかが観客に伝わります。マッツは狂気に隠れたキャラクターの感情を深く理解して演じるので、どんなに奇抜なことをしても観客が共感できるんです」

"心理的に必然性があると表現できるところです。なぜそう感じてそう振る舞っているのかが観客に伝わります"

ここがね肝だよね。
これを伝えられる演者はなかなかいない。
さすが北欧の至宝。

本編で何度も云う「眠れない時は、500を逆から数えると眠れる」のは本当か?これは軍隊式なのか?

実際に試してみたのだが、480くらいで面倒くさくなってやめてしまった。

眠れるかどうか定かではないが、不眠症の方は一度試してみるといいかも…
Fitzcarraldo

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