さよこ

JOINTのさよこのレビュー・感想・評価

JOINT(2020年製作の映画)
4.2
【インディーズとは思えない迫力の映画】
刑務所から出所した主人公が、暴力団の構成員になることを頑なに拒みながらも、裏社会とカタギの間で行ったり来たりする話。

試写会で観賞&公開初日に2度目の鑑賞。
試写会のアフタートークで聞いた制作エピソードは下のほうにあります🙌

***

📞裏稼業の生々しさ
振り込め詐欺を行うための名簿作りの過程など裏稼業の手口がリアルに描かれていて妙に生々しかった。ぶんぶんモシモシのメンバーの台詞で印象的だったのは「(マジな)オンナが出来たんすよね…」というもの。オンナが出来たからカタギの世界に行く!じゃなくて、オンナのために金が稼げるヤクザ頑張る!に繋がっていく彼の思考は凄く裏稼業っぽいなと思った。そして要所に「ヤクザで生きる」ことへのプライドめいたものを感じて、彼の美徳が見えた気がした。この役者さん、軽薄なノリが映画に緩急を与えていて凄く良かった。(あと割と緊迫したシーンで「レディには優しくしてあげて〜?」も妙な色気があって好き)

📞在日外国人たちの生活
この映画の魅力の1つはキャスティング。劇中に出てくる不法滞在者を演じるのは実際に韓国にルーツを持つ役者さん。劇中では流暢な日本語と韓国語を交互に話していて、しかも内輪の話をするときには日本人には通じないように「母国語で話す」など、在日外国人のよくある行動パターンが巧みに反映されている。限りなく現実に近い世界。こういう繊細な描写が多くて現実と映画の境目が見えなくなる。この映画の凄いところ。

📞印象に残った台詞
劇中で印象的だったのは「(外国人を)安く働かせるくせに、働きすぎると国に還される」だ。このセリフ1つで色んな情景が浮かぶ。彼らは日本で生活しながら、勤務時間の制限を受けるなど私達とは違う法律のなかで生きていかなくてはいけない。賃金が安いのに長く働けない、けど日本の物価は高い。だから日本で人並みの生活するには不法就労するしかないし、困ってる同郷がいたら助けてあげたい。だから違法な仕事にも手を染める。こんなに丁寧に説明はされてないけど、先のセリフ1つで十分伝わる。端的で良い台詞。

📞心に残ったシーン
出所して早々に慕ってる地元の先輩(組の構成員)に会いに行き、流れるように裏稼業の人たちと繋がりを持つ主人公。いつの間にか疎遠になるカタギの世界より、よっぽど人の繋がりが強そうだと思った。仲間がいる居心地の良さと、生きるためにほんの少し削った道徳心。そんな彼でも表社会の人間になれるチャンスがあれば内心手に入れたいと思っているのが意外というか新鮮だった。どこにも所属しないだけに、表社会に興味ないのかと思っていたから。心のどこかで蓋をしていたものが溢れたような浮足立った主人公が印象的だった。

📞もはやドキュメンタリー
劇中に出てくる刺青を入れるシーンはホンモノと聞いて驚いた。荒木役の人が元々身体にTATTOOを入れていて、ちょうど新しく彫る予定があると聞いた監督が実際の施術を撮影させてもらい、映画に取り入れたんだとか。どおりで彫ってるときの肌の質感が生々しいわけだ。本物の彫り師さんの映像は凄みがあって、スクリーンで観ると(そんな意図はないだろうけど)怖い人への刺青は失敗が許されない…!という緊張感のようでとても良かった。あと刺青めちゃ痛いのに平然と煙草を燻らせてる姿は、まぢで格好良かったし、暴力性の強い役だからこそ、この程度の痛みは痛みじゃねぇよとでも言わんばかりの余裕のある姿は、暴力を受ける側にも慣れてるような気がして、この役に奥行きを持たせるのにぴったりなシーンだと思った。

ーーーーーーーーーーーーーーー
この先は制作エピソードです🙌
ーーーーーーーーーーーーーーー
制作のきっかけ:
映画制作のきっかけは役者さんたちが集まる飲み会(打ち上げ?)で、映画作ろう!と盛り上がったから。犯罪モノを撮ることだけは決まってて、最初は保険会社を潰すアイディアもあったけど、結局「どう転がしても保険会社なかなか潰れないなwww」てことで今のストーリーに。

キャストたち:
実は出演者の半分くらいは役者ではなく本業が別にある人たち。例えば『キャッチのおにーさん』はホントに歌舞伎町でキャッチのおにーさんをやってる人で主演の山本さんが知り合いを連れてきたとか。あと『ヤクザの会長(だったかな)』は主演/山本さんのお父さん笑、『荒木役』は役者じゃなくてバスケ選手(圧倒的存在感で絶対俳優だと思った!)など、役者さんじゃない人たちがたくさん活躍。キャッチのおにーさんは台詞もあったし演技うまかったぞ…何も聞かされずに素のリアクションを撮ったのかな。なんにせよ役者じゃない人の使い方が上手い凄い🤔

主演の山本さんは本作が俳優デビュー:
俳優の他にモデルをやってるようで、確かに画面映えが凄い。好きなシーンは喫茶店で煙草吸うところ。カタギの世界に馴染んできたときのカオと、裏社会の人たちと対峙するときのカオが全然違くてスイッチが入ったようにすっとそっちの世界に馴染むのが、表と裏の両方を行ったり来たりできるタケシらしさが出てて素敵でした。あと普通に本職の人に見えて怖かった(役者さんや制作スタッフさんたちもよく職質に遭ったそうです)

ロケ地は上野:
韓国料理屋、ヤクザが集まる喫茶店など、近い場所にあったロケ地が集まってたそう。

台本はほぼなし:
凄くないですか。簡単な流れのみで、台本なし。役者さんたちと監督さんで「こいつならこういうでしょ」て考えて台詞をゼロから作っていったと。心にチクリと刺さった「所詮お前は日本人だもんな」も完全なアドリブ。雑誌のインタビューで自然に出た言葉と言ってた。ちなみに荒木役のセリフは主演の山本さんのアイディアがたくさん採用されてて、どんどん荒木が格好良い役になっていくから「やっぱ俺(←主演の人)が荒木やりたい」て監督に言ってみたけど却下されたって😂

デティールはディスカッションで決定:
凄くないですか。例えば主人公がカタキ打ちに行くシーンも「やっぱタケシならカタキ打ち行くっしょ。でも1人だとキツイから誰か仲間呼んでさ…」みたいな話から、作品に反映していくと。脚本の当て書きよりも、もっとディープな作り方してる。だから役者さんたちが活きてるんだろうな。監督さん凄いな。

カメラワークへのこだわり:
印象的だったのは「カメラの主観性を大事にした」という言葉。どこに何をどう映すかによって意味合いが変わってくるらしく、かなり計算してるっぽかった。深いなぁ…。あとドキュメンタリーに近い手法で撮ってて、ドキュメンタリーは何が起こるか分からない状態でカメラを回すから面白いことがギリギリ画面の端っこに映ってたり、ターゲットの動きの邪魔にならないところにカメラを置くから俯瞰や定点になりがち。それに加えて俯瞰じゃない撮り方をするカメラも用意して編集で繋いでテンポ良く見せると。

好きなカット割は、ぶんぶんモシモシのクルマのシーン、テンポ良くて好き。あとチャプターごとにキーワードとなる言葉の解説を白抜き明朝体で出すのもかっこ良かった。

覚えてる限りの制作裏話でした🙌
面白かったです、観てください〜!

ーーーーーーーーーーーーーーー
⚠この先、ネタバレあります⚠
ーーーーーーーーーーーーーーー

📞見た目が似てる…
同じくらいの年代の怖い顔の人たちがたくさん出てるので、誰がどっち派閥の人なのかすぐに見分けがつかないときがあったので困惑した。※なおパンフには人間相関図が載ってたので先に読んでおくのもアリかも。

📞主人公の見た目
主人公の風貌が短期間で変わり過ぎて別人すぎた(髪、ヒゲ、ファッションが変わっても''同じ人''と分かる軸となるものが欲しい。自分が顔を覚えるのが下手なだけかもだけど)ので、主役を見失うことがしばしば。

📞クライマックス
ヤクザの親分はそんなにキャンキャン吠えない気がする(上層部になるほど紳士的で静かに怖いイメージ)のでそこだけチープに見えた。

以上の理由でスコア減らしてます🙏
けど総じて面白いです!👍👍👍
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【追記1】
試写会のあとSNS観たらフライヤーにサインもらってる人がいて、自分も勇気出して声掛けすれば良かった〜!とジタバタしましたw(そのあと公開初日に観に行ってパンフにサインもらいました!嬉しい!ありがとうございます!)

【追記2】
あとで主演の人がモデルをやってると知って「だからか…!!!」てなりました。シーンによって別人に見えたのは、きっと''服が似合いすぎた''からなんじゃないかな…無意識に「役」じゃなくて「服」囲気を合わせてしまったのかも?と思いました。が、ちゃんと調べたら特にがっつりモデル→役者に転向したわけじゃないのでこの考察は忘れてください🙏

【追記3】
主人公のタケシに思うこと。度胸もあって人の心を掴むのも上手。前科さえなければ表社会でも活躍できるだろうに…もったいない。でも表社会で生きるってそういうことなんだよね。どんなに頭に血が昇っても他人を脅さない、殺さない、犯罪に走らない。表社会は、一人ひとりの自制心で成り立ってる。だから前科があると「自制心がない人間」と思われ敬遠されるし、一緒に仕事をするのはリスキーだと感じてしまう。前科者が表社会に戻りづらいことは社会問題の1つではあるけど「なぜ戻りづらいのか」は、この映画でまさに答えが描かれてるので必見。例の大手企業の判断は間違ってなかったと思う。更生する人もいるけど更生を証明することってすごく難しい。実はこの試写会の当日、知人が逮捕されたことを知りました。加害とは無縁の人だと思ってたのでほんとにショックで…。そんなときに、出所した男を主人公とした映画に出会えたこともあり、自分の中で凄く思い入れのある映画になりました。社会復帰の難しさよ…。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【追記4】
お気に入りのこの映画が「2021年 新藤兼人賞(銀賞)」を受賞しました!凄く嬉しい🎊
https://eiga.com/amp/news/20211122/7/
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【追記5】
オランダ映画祭で上映決定🎉
すごいぞ!どんどん広がっていく…!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なお続編?シリーズ化?の構想もふわっとあるみたいで、もしやるならタケシに前科ついたときの話(過去編)を今回と同じキャストでやってほしい〜!!!と思いました。
さよこ

さよこ