ぼのご

草の響きのぼのごのネタバレレビュー・内容・結末

草の響き(2021年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

主人公の和雄を演じる東出さんの張り詰めた表情が上手かった。つらくてつらくて、自分のことでいっぱいいっぱいで壊れそうな人の顔してる。

可哀想なんだけど、和雄のことを色々気遣っている妻の純子の方も危うい。夫の療養のために地元から離れて知り合いもいない北海道まで来て、一人で家のこと全部やって。和雄は精神科の医者の勧めで毎日走りに行って、それで義務をこなしているような態度を取るけど純子はその間も働いているし、不満をぶち撒けられるタイプじゃないんだけど明らかに溜まっていってる様子が見ていて不安になった。
純子を演じる奈緒さんの表情も、東出さんのとは別物なんだけど壊れてしまいそうで上手かった。限界を迎えた時、和雄がコップの水が溢れるタイプだとしたら、純子は水の重さで穴が空いてからっぽになるタイプというか…なんか意味わかんないかもしれないけど。

純子は映画オリジナルの登場人物で原作にはいないらしい。和雄を客観的に見るために純子を出したってトークショーで監督が言っていた記憶ある。それでどう見えるかは純子の性格や純子との和雄のやり取りによっても違ってくるだろうし、原作読んでいないからよくわからないけど、これだと和雄の身勝手な部分が結構浮き彫りになっているように見えた。寧ろ純子の方が主人公にも見えてくる。

和雄が通っている精神科の先生の態度は酷い。威圧的で義務的で、全然治る感じがしない。医者は一日に何人もの患者と接するだろうし、距離感保って強くいないと自分がもたないのかもしれないけど、患者側からしたら勇気を振り絞って来てるのに。和雄だって、泣きながら何度もしゃがみ込みながら行ったのに。和雄がそこら辺どう思っていたのかはわからないけど、医者の言葉にモヤモヤしているような場面はいくつかあって、他の病院に通ってたらまた違ったのかなって思った。

でも医者の勧めでランニング続けるようになって、それで出会いもあったのは良かった。
ランニングの最中で出会った高校生三人は、これからって感じがする。でもその「これから」って感じもまた、不安で怖いことなんだと思う。彰は崖から海に飛び込んで死んじゃったけど、泳ぎの練習してたし飛び込む前には服も脱いでいたし、死ぬつもりなんて全然なくて何かになりたいだけだった気がする。

和雄が精神科に入院して、職員の目を逃れて外へ走るラスト。とっても自由で吹っ切れた様子で気持ちが良かった。
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