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OSLO / オスロのfujisanのレビュー・感想・評価

OSLO / オスロ(2021年製作の映画)
3.6
『今こそ求められる第二のオスロ合意』

1993年、のちに双方の当事者がノーベル平和賞を受賞することになった、イスラエルとパレスチナの歴史的合意である『オスロ合意』。本作はその歴史的締結までを描いた実話ベースの物語です。

制作総指揮はスティーブン・スピルバーグ。今年観たスピルバーグの半生を追ったドキュメンタリーでも、ユダヤ系のスピルバーグ監督が「シンドラーのリスト」とともに多くの思い出を語っていた作品です。

1990年代、当時も激しく対立していたイスラエルとパレスチナ(当時はPLO)。互いに殺し合い、憎しみ合っていた両国を交渉のテーブルに付けたのは、北欧ノルウェー外務省の一女性職員、モナ・ジュールでした。

イスラエル側政府は誰も交渉に応じなかったため、第一回会合のイスラエル代表は大学教授。ノルウェー政府もイスラエルの後ろ盾アメリカの目もあり、政府としては動けず、会合はあくまでも私的な会合として秘密裏に開催されました。

交渉は複数回実施されるものの、度々感情のもつれから決裂。特に、”エルサレム” という言葉が出た途端に双方が激しく反応し、殴り合わんばかりに激昂することも度々で、宗教対立が根底にあることの根深さを感じさせます。

そんな中、外務省職員のモナとその夫は献身的に双方を取りなし、『どんなに揉めても夜は一緒に食事を摂る』というルールを定め、料理とお酒の力も借りて、少しずつ双方の信頼関係を築いていきます。



本作は全編のほとんどが激しい言葉の応酬。

シリアスな会話の応酬がひたすら続く118分間ですが、巧みな脚本と演出により、最後の最後までどうなるか分からない、緊迫感ある映画として完成されているのはさすがです。

ポイントは、パレスチナ側のトップですべての決定権を持つアラファト議長。
ただ先程も書いた通り、パレスチナ側は代理人が出席。代理人は誠実な男ですが、交渉中に度々アラファトに電話で確認するといいつつ、実は電話をしていないことをノルウェー側は掴みます。

それを隠したまま、交渉は大詰めに。最終、トップ同士が内容の合意をする場面、パレスチナ側は誰も来ておらず、電話で対応するとのこと。しかも、電話の向こうで代理人は、アラファトは英語が話せないので自分が通訳して伝える、と話します。

つまり、電話の先にアラファト議長が居るかどうかは、分からないのです。

観ているこちらも含め、イスラエル側は誰と話をしているのかと疑心暗鬼が続きますが、ここから史実としての締結に至るクライマックスの展開は見事でした。



そんな骨の折れる交渉を経て締結出来たオスロ合意ですが、内容はたったこれだけ。
・イスラエルは、PLOをパレスチナの自治政府として認める
・パレスチナ(PLO)は、イスラエルを国として認める
・イスラエルは占領した地域から撤退し、5年間自治を認める
・双方は、今後様々な問題に対し、協議を続けていく

つまり、エルサレムの帰属など細かいことは全て先送りということですが、そこまでの交渉の経緯を見ていると、これでも締結できたのは奇跡だと思えます。

事実ベースの映画らしく、エンディングへの流れは実際の映像が使われます。

アメリカのクリントン大統領(当時)が双方をアメリカに招いての調印式から、ノーベル平和賞受賞。

しかし、ここがピークでした。

その後、イスラエル側のラビン首相は国内過激派により暗殺。アラファト議長もイスラエルにより軟禁状態となり、2004年に死去。2006年のイスラエルによるガザ地区・レバノンへの侵攻により、現在、オスロ合意は事実上崩壊とみなされています。

そして今起きている、大規模な殺し合い。

でもこの映画は、希望を感じさせてくれます。一度出来たら二度出来るはず。今こそ、第二のオスロ合意締結を願ってやみません




2023年 Mark!した映画:350本
うち、4以上を付けたのは40本 → プロフィールに書きました
余談はコメントに書きました
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