このレビューはネタバレを含みます
動的なカメラワークが印象的で、構図やライティングも丁寧に作られ、飽きの来ない映像だった。
全体では短いカットでこまめに視点を移し細かく繋がれていたが、冒頭と終わりだけは長回しで統一されていた。
それはまるで、主人公の一時出所中に起こったどたばた劇のスピード感と、対比して、刑務所内での無為に過ぎていくゆっくりとした時間感覚のギャップを映しているようでもあった。
作品の作り方、が、作品の中身を表現していた。
ストーリーについては、
少しの嘘が、真実を塗りつぶす怖さ。
本来関係のない外部の人間が、人の美談(甘い蜜)によってたかり、その味が悪くなると文句を言って離れていく。その無責任さと人間の汚さへは嫌気がさした。
一方で、家族愛、男女の深い愛に対しては、涙腺が弛んだ。
最後の無言のシーンがとても印象的で、たくさん他人に叩かれ、迷走し、真実もとるべき行動も分からなくなっていた主人公だったが、彼の本当の姿があそこに描かれていたと感じた。
他人からすれば、本質がでたのよ、と言われ、罵られ、泥を投げられる彼だが。
子供とパートナーにとっては、唯一無二の存在だった。
人によっては英雄であり、人によってはただの憎たらしい人にもなりえる。
物事の二面性は世界の真理であって、個人的にも好きなテーマだ。
無情という言葉が似合う本作だが、それでも笑顔と愛が記憶に残り、温かみのある作品だと感じた。インドで見た、家族の繋がりの強さや組織運営の雑さには親近感を覚え、個人的に嬉しかった。
刑務所のお偉いさんに、「お前って結構バカだな」と言われた時の主人公の返し言葉「だからここにいるんですよ」が最高だった。
正直者が馬鹿を見る。ばか正直。不器用。
そんな彼だから好かれ、そんな彼だから損をする。