幽斎

シスターズ 異常な愛情の幽斎のレビュー・感想・評価

シスターズ 異常な愛情(2019年製作の映画)
3.6
Asylum。アメリカ英語では、捕らわれ者を意味する、それにTHEを付けた会社が本作を製作した「The Asylum」。theは駅前留学NOVA的に言えば、話し手と相手との名詞の共有を意味するが、アメリカ的には超一流。会社名そのものがB級感で臭い立つ。

アメリカのプロデューサーDavid Michael Lattが設立。始めから劇場公開せず、当時流行したレンタルビデオとテレビ放送の空枠を埋めるOVA専門。今考えると、ネトフリやアマブラの様にコンテンツに責任を持たず、時間潰しの為に垂れ流す作品の先駆けと言える。最大の特徴はmock buster。メジャー・スタジオのヒットに便乗、紛らわしいタイトルで制作。過去には訴訟に発展、著作権に世界一厳しいハリウッドが見過ごす訳がない。が、彼らの作品は顧客に愛されてる事も有り、寛大に放置される。

意外と知られてないが、アサイラムは日本のアルバトロス傘下のニューセレクトの依頼を受けて「シャークネード」を製作、サメ映画と言う新ジャンルを開拓した事でも知られ、アメリカに逆輸入された。アメリカと日本との売り上げが大差ない程、日本人には人気が有るそうだが、サメ映画を全く見ない私にはサッパリ分らない。日本のユーザーも「なんだ、アサイラムか」と馬鹿にしながら見てるのだから、ヤレヤレ。

そんな私も沼にハマった(笑)。最近はサメに醒めてアサイラムもスリラーに進出したのかと思えば、アマプラ配信で納得。アサイラムにしては、大真面目に製作してるので、最近はシネフィル感を漂わせ、映画祭に出展された作品をリリースするアルバトロスこそ、日本の元祖B級帝王としての奮起を促したい。

代理ミュンヒハウゼン症候群MSbP、Münchausen syndrome by proxy。周囲の同情を引く為に病気を装い、自らの体を傷付ける。ほら吹き男爵のドイツの貴族、ミュンヒハウゼンに因んでイギリスの内科医が付けた。代理とは傷害の対象が自分ではなく、苦労してると称賛が集る状態を示す。圧倒的に女性が多く、医療を乱用した虐待として厳しい目が向けられるが、事件性を立証するのは困難を極める。

ギラン・バレー症候群GBS、Guillain-Barré syndrome。急性の根神経炎、筋肉を動かす運動神経が障害を受け、四肢に力が入らない病気。重症の場合は呼吸不全を発する。フランス人医師ジョルジュ・ギランとジャン・バレーが発見した。インフルエンザの予防接種の発症で知られるが、昨年からCOVID-19のワクチン副反応として、報告される。アストラゼネカとジョンソン・エンド・ジョンソン製で発症リスクが高まるとされるが、私の知る限り日本では確認されてない。

「実際に起きた事件に基づく」と言う宣伝文句は、ヒアルロン酸を飲むと膝関節が良くなると言う健康食品と同じ位、胡散臭い。グルコサミンやコンドロイチンを飲んで、膝が良くなるなら、ノーベル賞に値する(笑)。飲んで骨に浸透するまで、どれだけ時間が掛かるのか?。骨に到達した時に成分は、どれだけ残存するのか、通販会社はエビデンスを明確に答えて欲しい。それが本当に効くなら、普通に病院で処方してますよ。テレビでお年寄りを騙すのは、程々にしないと地獄に堕ちるわよ。

主役3人の女優はB級専門の作品にしか出番がないが、本作の演技は悪くないし、作品全体の雰囲気はアサイラムを差し引いても悪くない。特に終盤の演出には、上品さすら伺えアサイラムも成長したなと思わなくも無い。スリラー的に言えばアトモスフィアも悪くない。だが、其処は低空飛行のアサイラム。スリラーとして観た場合はプロットとロジックに大穴が開いており、とても手で塞げるレベルではない。

Daniel Luskoは私が1.0評価した「トップガンナー」監督なので、ソレを思えば本作は素晴らしい作品だが、無駄に雰囲気が良いだけに、尚更ツッコミ処満載で困ったちゃん。「いや、其処でそれを食べるのか?」とか「警察はあんな死に方しててロクに調べないの?」とか「アレを病院に持ってったらどないすんの?」とか、分るだけで破綻した伏線は片手で足りない。気の毒な彼氏も含め、オチを放り投げてはスリラーとは言えない。

本作はアメリカではテレビ放映された。実際に起きた事件に基づく、が何処まで真実なのか大いに疑問符だが、アメリカで親が子供を家に留める為に薬を飲ますケースはニュースで見掛ける。虐待に関しては、通報システムがTwitterを利用して行われる程、監視の目が行き届いてるが、代理ミュンヒハウゼン症候群は分り難く、大きな社会問題として、テレビ番組で特集が組まれる程に深刻化。安易なバッドエンドで終わらせない事情は組むべきかもしれない。

君子危うきに近寄らず。アサイラムにしては良く出来てる、サメファンの方は是非(笑)。
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