masaya

アリスとテレスのまぼろし工場のmasayaのレビュー・感想・評価

4.2
止まった時間と、止まることなど出来ない人の心。画面一杯充満した岡田麿里世界観に度々気絶しそうになりながら、鬱屈した十代描写に共感性羞恥覚えながらも一気に突き進むストーリーの激流にラストまで押し流された。気軽に薦めはしないけど、僕はきっとまた観に行くだろう。

世界設定もアニメーションも素晴らしいのだけど、この映画の主題がそこには無くて、あくまでも人間と人間が対峙した時の調和と軋轢だったり、そこから生まれる思いがけない花や種子で物語を進めて行くことに意義を見出しているのがやはり独創的に思った。舞台がメザーテだろうと秩父だろうとそれは変わらない。

見伏の町が立ち止まった期間はそのままこの国にとっての失われた数十年であり、それ以前のもっとも繁栄した良い時を閉じ込めた空間と言えるかも知れない。それは振り返った時の記憶の中の青春時代のように美しい。対して現実はいずれ挫折する未来、衰えていく未来。それでも変わり続ける未来へと、その町は彼女を送り出す。

監督と同じく、いわゆる失われた世代の端くれとして、この映画は自分達が生きたかも知れない別の人生への鎮魂歌のようにも思えた。他人や時代のせいにして悔やむばかりの生よりも、醜くもはかなくも自らの生を生きようという再確認のようでもあった。

みゆきさんの主題歌、そうしたテーマにしっかり沿っていて、伊達じゃなく脚本読み込んだんだろうことが伝わってくる。大御所然とならず、共同作業者としての岡田監督の感性にチューニングを合わせてくるあたり、主題歌職人としていまだ抜群の安定感。


9/18 2度目の鑑賞。
大嫌いと大好き、場面ごとに相反する感情が極大まで積み上がる経験したことない振り幅の映画で、高カロリーなのになんかとても惹かれてしまう。睦実の嘘はいつも言葉裏腹な誘い文句だけど、反発しながらも付いて行くような。言ってる意味わかるかなぁ。

前半は丁寧に置きに行ってるだけだからそこまでではないのだけど、雪降るオートスナックで世界の崩壊が加速してからが素晴らしい。この期に及んで碌でもない大人たち、終わりを先延ばしにしたい少女の恋、各々の切迫した事情までこちらに伝えようという気配り。カオスに乗じて魅力を増すキャラクター達。

2回目鑑賞なので「はじめから知っていた」彼女の言葉や行動が胸に迫るものがあった。過去回想シーンから二人で鉱山列車に乗り込む瞬間に「二隻の舟」のイントロが流れ出した時には涙を禁じ得なかった(存在しない記憶)


見伏の町、しんののお堂や超平和バスターズの基地と同じように、物語そのものを表しているんだよな。それは世界のすぐ隣にあって、選ばれた人(読者)だけが出入りして、そこで育ち、去っていく。その後も物語はきっとずっとそこにあるし、忘れない限り、そこで会える人がいる。
masaya

masaya