金魚鉢

流浪の月の金魚鉢のレビュー・感想・評価

流浪の月(2022年製作の映画)
4.3
「人は見たいようにしか見てくれない」という言葉がこの映画を表しているような気がした。幼女誘拐を扱う作品としては犯人を探すミステリーから入って逮捕後にその人物が犯行に至るまでの経緯が明らかになるものが多いように感じるが、今作では周りから理解されない愛の形が軸となって容赦ない世間の誹謗中傷に苦しむ二人が描かれているので心境は複雑である。

少ない人数ながらそれぞれの立場を持って濃密な人間模様へと発展していく脚本が素晴らしく設定上の線引きが上手いため善悪の判定が凄く出しづらい作品。誰にも迷惑はかけていないことはあくまで結果論でしかないし、映画を通して事実を全て知った上での判断なので現実世界に置き換えるとやはり手遅れになる前に対応する必要があるし容認するのは難しい。ただこの物語上のみで書くならば、立場の弱い側の声にもう少し耳を傾けて意見が反映されてもいいのかなと思うし、どうしても対象や時代が違っていたら事件は別の収束の仕方をしたのかという点において偏見への疑問が残る。一つの判断が少女の唯一の心の拠り所と青年の将来を奪い人生を大きく狂わせてしまう展開に何だか居た堪れない気持ちになった。キャストと題材を見たときは美男美女過ぎて同情を買うような美化がノイズにならないか少し心配だったが、むしろかつてキラキラ青春映画を彩っていた俳優陣が報われず悲劇に見舞われていく中での体当たり演技は事の深刻さをより際立ててくれるような凄まじさがあった。"可哀想"という言葉が優しさを振りかざしながら自分の立場を優位に出来る、慰める側にとっていかに都合の良い言葉であるかが分かった。たとえ無意識だとしても相手の気持ちを尊重せずに勝手な判断で同情するのは自己満足でしなく、相手からしてみれば本当の思いやりになっていないどころか傷つくような受け取り方をさせてしまっている場合すらあるということをこの映画に思い知らされました。
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