ゼロ

流浪の月のゼロのレビュー・感想・評価

流浪の月(2022年製作の映画)
4.1
女児誘拐事件。 その真実は、二人だけのもの。

久々に心震える邦画を観たな…というのが感想。原作は、第17回本屋大賞受賞作にも選ばれている凪良ゆうさんの同名小説。「誘拐犯」と「その被害者」という陳腐な物語ではあるが、李相日監督により極上のものに仕上がっていました。

数年前に原作小説を読んだ時には、テーマは分かるものの、会話文が多く、淡々と進んでいくな…という印象がありました。本作は、重厚感があり、上映時間が150分とあるものの、長さを感じさせないものがありました。

『パラサイト 半地下の家族』などで知られるホン・ギョンピョが氏が撮影しているのが大きい。水辺の輝きや雲の間から現れる月など光と影が織りなす映像は落ち着きがあり、統一されている。映像に欠かせない伴奏も落ち着いたものが多く、観客の心を掴み取る。

制作側が優秀なだけではなく、演者の演技も見事。主演を演じる広瀬すずさんは、体を張った演技をしており、中瀬亮演じる横浜流星さんの絡みや暴力も生々しさを感じた。恋人だからこそ、DVされても優しく声掛けを行ったり、過去に事件があったことを想定させる影の演技も迫真に迫ってました。

加害者である佐伯文を演じた松坂桃李さんも、何を考えているか分からない人間性が出ており、棒読みのように喋る演技も良かった。彼は、「ロリコンで凶悪な誘拐犯」というレッテルを張られても、隠したかった事実が大したことないというのが、また現実的で良い。終盤に明かされるあの傷は、もっと劇的に表現できるが、あの剝き出しを出してくるのが、心震えた。

また社会情勢を反映するかのようにSNSでの悪意。YouTubeで映像が流れたり、とある掲示板で顔社員が流出したりしていた。更紗は、彼氏の亮が、文を追い詰めるためにSNSに投稿していると決めつけていたが、全てを亮がやったわけではなかった。

作中で「人は見たいようにしか見ない」とあったが、正にそう。恋人が全ての悪意の元凶かと思いきや、見知らぬ誰かもSNSに触発され、誹謗中傷はする。仲の良いパートの人だって、娘を置いて、男と遊び惚ける。

世の中にある悪意を、自然と作品に絡ませ、どん底まで落とすのは良かった。たぶん他の製作が、この作品を撮っても、安っぽいメロドラマで終わっていた。

社会の枠組みからはみ出た人間が、この世の中で生きていく難しさと苦しみ。社会から認められなくとも二人が見つけた逃避行の先は。安易な着地はしているものの、きっと幸せな日々ではないのを想像させる終わり方は良かったです。
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