Jeffrey

九月の冗談クラブバンドのJeffreyのレビュー・感想・評価

九月の冗談クラブバンド(1982年製作の映画)
2.0
「九月の冗談クラブバンド」

冒頭、夜明けの港。紫色に染まる空、冷たい風が吹き荒れ、暴走族仲間に伝説的に語られるリョウの話が始まる。スナックの雇われマスター、仲間の事故死、 怪獣の着ぐるみ、一周忌、バイクの残骸、スズキの改造車。今、暴走族との対立が疾走する…本作は長崎俊一のデビュー作で、走ることを止めた元暴走族のリーダーと、彼をとりまく昔の仲間たちの青春群像を描いたATG作品で、この度DVDを購入して久々に観た。正直ギルド作品では好みではないが、世間に馴染めない男たちの哀愁が爆発する青春映画としては存在意義を叩きつけている。案外野心的で、当時二十五歳だった監督の三十五ミリデビューとしては上手く八十年代の混沌を捉えている。

いきなり余談だが、クランクアップ間近の現場でのオートバイ十二台接触と言う不慮の事故をがあったそうで、予定より丸一年遅れて公開にこぎつけた映画である。本作は時にストーリーさえも破壊してしまうハイボルテージなパワーと画面に飛び散るやり場のないエネルギーと、それに対峙する宇崎竜童の音楽が評価されている。そして映画の質が真っ先に問われていた八十年代と言う新たな時代において、改めて良き映画への課題に挑んだ野心作として評価された。

さて、物語はリョウは、ジンを片手に、スズキ三七〇SPの改造車に乗って第三京浜をぶっとばしていた伝説の男である。その彼が走らなくなってて間もなく一年が経とうとしていた。あの日、バイク仲間の徹司とリョウは、一人の女レイ子を巡って賭けをした。敵対する暴走族グループ、ルパンの群れに突っ込もうと身構える二台のバイク。そしてゴーの合図で疾走した徹司は、事故とも自殺ともつかない激烈な死を遂げたのだった。以来、バイクを捨てスナック冗談クラブの雇われマスターとなったリョウ。だが、かつての仲間達は信じていた。リョウが再び走る日を。それはきっと徹司のー周忌に違いないとリョウのバイクの手入れをする夕陽やザジ、ネム。レイ子だけが仲間から離れ、OLとなるが、彼女もまた彼が蘇る時を待っていた。やがてー周忌の九月がやってくる…

本作は冒頭に、夜更けの港が風の音とともにスライド・ショットをされていく。カメラが物静かにバイクの残骸を道路越しにとらえる。そして真っ赤な橋が映り、その下を船が通るショット、宇崎竜童の音楽が流れ、タバコー本を吸う真っ赤なアウターを着た男と黄色のアウターを着たカチューシャの女、サングラスをかけた男、赤いジャンパーの女、革ジャンのサングラスの男がタバコを回しながら吸い、血だらけの男の死体を眺めている。そして女同士が喧嘩をし、革ジャンの男がバイクを棒でぶっ壊す。画面に一年後の文字が現れ物語は進んでゆく…と簡単に出だしを話すとこんな感じで、ギラギラ感が半端ない青春映画である。

私にとって思い出深い安達祐実主演の「家なき子」の父親役として出演していた内藤剛志が本作の主演を務め、またルパンのリーダーをしているモロ役の古尾谷雅人も堂本剛主演の「金田一少年の事件簿」で私の青春を満たしてくれた役者の一人である。ATGでは大森一樹監督の「 ヒポクラテスたち」で見事に心の葛藤を医学生の立場として演じていた。残念なのは自殺してしまったことだ。日大芸術学部在学中から手がけていた作品の評価が高いと言う事は知っているが、それらの作品を見たことがないため何とも評価しにくいが、本作は記念すべき三十五ミリデビュー作としては、走りを止めてしまったバイク仲間の伝説のヒーローを主人公に、アンチヒーローの時代に生きる現代の若者たちの拠り所のない空虚感を浮き彫りにしている点はすごかった。登場人物のこだわりようが半端ない。なかなかのセンシティブな力作だ。最後にキーアートのイラストは石井隆が担当している。
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