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最後の決闘裁判のfujisanのレビュー・感想・評価

最後の決闘裁判(2021年製作の映画)
3.6
歴史物としては一級品。

中世ヨーロッパの圧倒的な世界観と、ジョディ・カマー、アダム・ドライバー、マット・デイモン、ベン・アフレックの名演による完成度の高い作品。

ただ、テーマ的には、今このタイミングで映画化したのが良かったのかは微妙に感じました。

舞台は1300年代の中世で、まだまだ野蛮な時代。

女性の人権なんてものは一切なく、女性は男性の所有物であるとともに、男性同士が、『ちょっとこっちへ来て一杯飲まないか』のノリで女性が充てがわれるところまで描かれます。

歴史物を今の基準でどうこうというのはナンセンスだと分かっているのですが、それにしても、見ていて気持ちの良いものではありませんでしたね。


□ 映画について
2021年、リドリー・スコット監督が、1386年のフランスで行われた最後の決闘裁判について書かれたエリック・ジェイガーのノンフィクション『決闘裁判 世界を変えた法廷スキャンダル』を基に描いた映画。

1386年の話なのにノンフィクションっていう所が凄いですが、著者のエリック・ジェイガーは膨大な史実資料を収集しており、かなりの部分が正確に史実に基づいているそうで、映画もそれにならって正確に。


□ 決闘裁判
神は正しいものに味方することを前提に、1:1で闘って勝ったほうが神が認めた真実である、という裁判。高貴な身分だけが許された特別な制度であり、本作が描く決闘裁判が公式に残る最後のもののようです。

1300年代といえば、日本でもまだ互いに名乗りを上げてからの一騎打ちが残っていたでしょうから、人間は同じように進化している所が面白いですね。

決闘といえば、ちょうど最新の「ジョン・ウィック コンセクエンス」のラストも1:1の決闘でしたが、あれは決闘”裁判”ではなく、名誉を掛けた決闘で、こちらは18世紀ぐらいまで続いていたようです。

本作が描く決闘裁判では、負けた方は神に見放された罪人ですから、さっきまで英雄扱いされていた勇者も身ぐるみ剥がされ、死体は裸のまま逆さ吊りにされるっていう生臭いリアルなもの。

また、戦いもリアルで、『日本刀は斬るもの、西洋剣は叩くもの』と聞いていましたが、その理由がよく分かりました。たしかに、あんな鉄の鎧を着ていたら斬れませんよね。。


□ 羅生門スタイル?
事実は一つでも、複数の視点から見ると全く違うものになる、という表現手法で、最近だと是枝裕和監督の「怪物」で使われていました。

本作でも、第一章がジャン・ド・カルージュ(マット・デイモン)の視点、第二章がジャック・ル・グリ(アダム・ドライバー)の視点、そして三章がマグリット(ジョディ・カマー)の視点で描かれる構成でした。

ただ、個人的には羅生門ではなかったのでは、とも思います。

「怪物」では、学校の放課後に鳴っているホルンの音が、
・客観的には、部活の練習のように聞こえ、
・先生視点では、自殺を思いとどまらせるほど心に響き、
・子ども視点では、校長との心の触れ合いになっている。

同じ事実でも、視点を変えると違うものに見えるところに特徴があるように思うのですが、本作では視点は違っても同じものが見えているだけのように思えました。



最後に:
本作は、120億円の制作費に対して興行収入30億円と、興行的には大失敗に終わった作品。

勝手な想像になりますが、いくら歴史物として完成度は高くても、女性をモノとして扱っているように見える映画になってしまっているのではないかと思います。

監督のインタビューなどを読むと、マグリットがレイプを犯罪として告発するという女性の自立もテーマだったようですが、裁判の過程ではさらに酷いセカンドレイプの被害を受け、裁判の敗者も最後まで事実を認めないという、胸糞感だけが残る映画になってるように思えます。

中世ヨーロッパの世界観が素晴らしかっただけに、ちょっと残念でした。




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