阪本嘉一好子

カード・カウンターの阪本嘉一好子のネタバレレビュー・内容・結末

カード・カウンター(2021年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

ストーリーは興味深いがブラックジャックとかいう賭け事は聞いたことがあるだけで、「カード・カウンター」の意味なんて知らないし、深く観賞できないと思いながら見ていたが、賭け事は焦点ではなく、苦難の中、ブラックジャックで踏み出して行こうとする、一匹狼のウィリアム・ティリッチ(ウィリアム・テル:オスカー・アイザック)の人生が焦点だと分かった。その人生も、閉ざされた心が開いていくところに興味があった。彼が自分の気持ちを素直に表現できるようになっていったシーンとウイリアムがロビン・フッドのような「ウイリアム・テル」になっていったシーンの2点が心に残ったので、ここに書き留める。

まず、元上等兵(PFC)のウィリアム・ティリッチは軍の刑務所で8年の刑期を終えて、学んだブラックジャックの「カード・カウンター」で人生を再スタートさせていくように見える。特殊作戦兵士としてイラクのアブグレイブ捕虜収容所で自らが犯した罪に苦しみ、刑務所で服役した後、ブラック・ジャックをして出直そうとしているようだ。彼の性格は良くも悪くも、はかりしれない才能のある人間(カード・カウンターだから)で、ザ・コンサルタント(2016年製作の映画)のクリスチャン ウルフ (Ben Affleck)high -functioning Autism(HFA)のような自閉症(Autism )かアスペルガーのような才能の人である。軍や刑務所で培われたのかもしれないが、同じことの繰り返しが自己満足させるようである。カジノには宿泊せず、モーテルに泊まる。モ-テルに入るたび、彼はシーツを広げ、すべての家具を白のシーツで覆い紐で固定する。彼のかつての上司ジョン・ゴードも同じようにシーツで覆い紐を結ぶ。その理由はわからないが、イラクのアブグレイブ捕虜の収容所での拷問や虐待の悲惨さを白の布で覆うことにより、潔癖さを証明したいのか、それとも、ただ、収容所でコードに習ったから癖がついたのか、検討がつかない。ウイリアムの悪夢から察するとイラクのアブグレイブではかなり酷い拷問があったようだね。


それに、疑いを持たれないようにするため、ウイリアムはギャンブル哲学を持っている。それは少額かけてある程度に勝つことである。





心に残った2点のシーンは:

1)ウィリアムがラ・リンダ(ティファニー・ハディッシュ)の宿泊しているホテルにいって、「カーク(タイ・シェリダン)が去る前に約束したんだよ。カークはあなたのことをよく話していて、.........約束したんだカークに。自分の気持ちを行動に移すって...........』ウイリアムはまっすぐ彼女の顔を見られないし、感情を表さないが、ドキドキしている様子が手にとるようにわかる。それに、流れてくるロバート・リーボン・ビーンの歌詞もいいねえ。I was drifting back in and out of space.......(Arise Sun) 収容所や軍の刑務所で女性付き合いもなさそうだっだ。このシーンはウイリアムは自分を変えようとして変えたシーンだ。自分を素直に表現できたシーンだ。明らかに、周りくどく、単刀直入の表現じゃないけど、ラ・リンダに対しての愛の表現が出ている。ウイリアムの勇気ある行動に感激。

2)もう一つは、カークについてこいといって自分の宿泊しているモーテルに連れて行った時のシーン。カークはシーツで覆われて固定されたベッドや家具を見て呆れていたようだ。私はこれから何が起きるのか心配だった。ウイリアムの凶暴性が出てきて、まさかカークを殺しやしないだろうと落ち着いていられなかった。しかし、ポーカーで稼いだ賞金はカークの大学の授業料、必要経費、クレジットカードの負債などを払ってあげるお金で、ポートランドの母親のもとに帰れ、父親を自殺に追い込んだゴードンを追うなと。カークの一切を引き受けてあげることは若いカークの将来を見据えてしていること。ウイリアムも似たような過去を経験していたのかもしれない。カークに二のまえを踏ませたくないという寛大な心から出たことだ。ウイリアムにとって、人のためにできることが前は何もなかったんじゃないか。
収容所と軍の刑務所に長年いて暴力行為が日常化してしまったり、彼のアスペルガーのような性格もあるが、同じ日常を過ごすことで 感情を無くしてしまったようだが、カークのことを考えられるようになったし、ラ・リンダを愛情を伝えることができるようになったことは人として成長したと思う。

最後にラ・リンダが刑務所を訪れたシーンだが、誠に切なかった。しかし、ガラスを通して、二人の人差し指に、お互いがぬくもりを感じたら、二人はまた一緒になると思った。



オスカー・アイザックの演技だが、バーでラ・リンダがウイリアムの頬に最初にキスしたシーンだが、キスの後、さっと身を守るシーンが強烈だった。細かく、気づきにくいシーンだが、アイザックの人に近寄られたくない、人に慣れていない雰囲気がよく出ている。その次の頬へのキスシーンは全く違う。アイザックの演技には感心した。