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スズさん 昭和の家事と家族の物語のchidorianのレビュー・感想・評価

4.6
横浜シネマリンで、ドキュメンタリー映画『スズさん~昭和の家事と家族の物語~』を観る。
公開されている劇場はシネマリンだけみたいなので、横浜に住んでいて良かったと思いました。

(2021/09/14追記 その後シネマリンでのアンコール上映を経て、11月から全国公開が決定したという。素晴らしい。)

さて作品は、昭和のくらし博物館館長で生活史研究家の小泉和子氏のご母堂であらせられる小泉スズさんの生涯を通して、昭和史とりわけ横浜大空襲などの戦争にまつわる事柄と、主婦がおこなっていた家事の諸々を記録しようという試みなのであるが、ひとりの女性と家族の物語でもあって、なんともじんわりと心にしみる映画だった。

横浜大空襲の事は、小泉和子氏の体験談として、焼夷弾による爆撃や艦載機による機銃掃射のことなどが語られ、その苛烈さを聞くに、私のような鈍くさい人間は真っ先に死ぬだろうと思う。
また、数々の戦時中の映像の中に、建物疎開を今まさにバリバリとおこなっているものがあり、話には聞いていたが、柱にバンバン斧を入れ、せーので引っ張って壊していく様は、権利もへったくれもない残酷なものだった。

戦後、小泉家は小石川に家を建てて暮らし始めるわけだが、スズさんの家事を記録した映像は、2000年代になってから和子氏が後世に伝える意図で撮ったもので、この映画に使われているのはその一部らしい。
当時のほとんどの主婦は、炊事、洗濯、針仕事など多岐にわたる専門的な技術を習得していた訳で、今となっては、その知識の広さと量は驚異的だ。
私の叔父に洗い張り職人がいるが、今や職人にしかできないことを、かつてはどの家庭でも普通にやっていたのである。
スズさんがおはぎを作る映像の中”に“こしあん”を作る下りがあるのだが、これがまあ相当な手間のようで、今ではもっぱら買ってくるもので作り方もコツもさっぱりわからない。

家事の映像に関しては、私も昭和生まれの人間ではあるが、ほとんど知らないことばかりで、これを文化の喪失と言わずして何であろうと呆然とする。
サステナブルだエシカルだとかまびすしい昨今であるが、こうした手仕事を、主婦に限らずひとりひとりが、ひとつでもふたつでも取り戻していく事が、現代をいきる上でも大切なのではないかと思う。
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